雨に攫われて
戦いはスクアーロさんの攻撃から始まった。しかし、武君は修行の甲斐あってかスクアーロさんの攻撃を避ける。気になるのは武くんの持つ竹刀だ。彼はスクアーロさんと竹刀で戦うつもりなのだろうか。スクアーロさんは武君に対し、至近距離で火薬を発射する。大きな水しぶきを上げ、煙が上がったが、その煙は奇妙な形をしていた。武君の持つ竹刀は刀へと変化している。武君が無傷なことを僅かだがスクアーロさんは驚いていた。
「う"お"ぉい!!図に乗るなあ!!ヒヨッ子があっ!!!」
スクアーロさんの攻撃に、退路を塞がれた武君だったが、武君も負けじと技を繰り出し、スクアーロさんの攻撃を避ける。
「う"お"ぉい小僧!!何故防御の後打ち込んでこなかった!!」
「!?」
「愚かなアホがぁ!俺に唯一傷をつけることができた最後のチャンスを潰したんだぞぉ!!」
『最後…?』
「しししっ、」
「どうやらスクアーロは確信したみたいだね。」
『っ、確信って…!?』
「勝利のだよ。もうスクアーロには自分の勝利が見えてるんだ。」
確かにスクアーロさんは強い、だけど武君だってきっと毎日修行を積んできた。簡単に負けるはずがない。私はそう信じ、スクリーンへと目を向けた。
武君は初めて前に出て攻めた。その素早さは彼の運動神経の良さが際立つ動き。刀は左手から右手へと移動し、スクアーロさんを切りつけた。しかしスクアーロさんは無傷だった。
「う"お"ぉい、お前の使う無敵の流派とやらはこんなものかぁ!?」
「!」
「それとは別に一つ腑に落ちねえことがある。貴様、何故今の一太刀に刃ではなく峰を使った?」
「そりゃあ俺はあんたに勝つためにやってんで、殺すためじゃねーからな。」
『武君…。』
彼の言葉を聞いて安心した。だが、スクアーロさんが負けた時、武君が殺さなくても、XANXUSさんは殺すつもりだ。その時、私はどうするのだろう。どうするのが一番いいのだろうか。
武君が水柱を作り、身を隠すが、スクアーロさんも水柱を作り、お互いの姿は見えなくなっていた。スクアーロさんが先に武君の姿を見つけ、彼を切りつけた。武君の左肩から血が流れる。どうやら武君の使う流派は、昔スクアーロさんが倒したことのある流派らしい。
「聞いてねーな。そんな話…。」
「ん"ん?」
「俺の聞いた時雨蒼燕流は完全無欠最強無敵なんでね。」
武君ははふらつきながらも立ち上がった。だが、彼の攻撃に右目を怪我してしまう。武君も技を繰り出すが、スクアーロさんがその技を受け止めた瞬間、武君の動きは止まってしまった。武君の意図ではないらしい。スクアーロさんの衝撃鮫<アタッコ・ディ・スクアーロ>という神経を麻痺させる技のせいで腕が使えなくなってしまったという。武君は一度上の階へと身を置くが、下から刺すような攻撃を受け、下の階へ落ちていった。
『武君…っ!!』
「鮫の牙<ザンナ・ディ・スクアーロ>…、ボス……。」
「はっ、何年経っても変わりばえのしねー野郎だ。」
「さすがスクアーロというところかな。ちゃんと最後に雨の守護者の使命を体現している。…戦いを清算し、流れた血を洗い流す鎮魂歌の雨。」
雨のように振った水が、スクアーロさんの返り血を洗い流していた。お願い、スクアーロさん。武君を殺さないで…!
「う"お"ぉい!!ガキども!そして花莉!!刀小僧の無様な最期を目ん玉かっぽじってよく見ておけぇ!!」
『…、』
「ししっ、お前の知り合い死ぬじゃん。ごしゅーしょーさま♪」
「意地悪言うと花莉に嫌われるよ、ベル。」
『死なないです。武君は死なない。』
私は祈ることしかできない。それでも、私は武君の勝利を信じている。
武君は再び立ち上がり、スクアーロさんの攻撃を受けながらも、スクアーロさんの元へと辿り着いた。そして、彼に確実な一太刀を浴びせた。
「貴様!!時雨蒼燕流以外の流派を使えるのかぁ!?」
「いんや、今のも時雨蒼燕流だぜ。」
「!!」
「八の型、篠突く雨は、親父が作った型だ。」
彼が言ったのはスクアーロの言っていた八の型、秋雨とは違っていた。時雨蒼燕流の八の型は受け継がれるその都度作られていると言う。
武君は刀を野球のバットを持つように構えた。スクアーロは武君に向かって走っていく。彼の行く道の水はえぐられていった。そして大技を放つが、武君はそれを避けた。しかしスクアーロさんも素早く反応し、武君に攻撃をする。武君は一度下がり、柱の陰に隠れたと思ったが、スクアーロさんの後ろに回り込み、斬りかかろうとしていた。
「死角はない!!」
スクアーロさんの手が本来曲がることのない方向へ曲がる。彼の左手は義手だったのだ。武君に剣が刺さったが、それは水面に映る影。それを見抜けなかったスクアーロさんは武君に峰打ちをされ、倒れた。武君はそのままスクアーロさんのリングを取り、カチリと自分のものとはめた。
「勝ったぜ。」
「ぶったまげ。」
「まさかこんな事がね…、」
「ボス…、」
「スクアーロ…ざまぁねえ!!負けやがった!!カスが!!!」
『…、』
「用済みだ。」
『待っ、』
「お待ちください。今アクアリオンに入るのは危険です。期待水準に達したため獰猛な海洋生物が放たれました。
『そんな…!』
アクアリオンに海洋生物が放たれてしまった。武君の命の保証はあるが、スクアーロさんの命の保証はなかった。それを知った武君はスクアーロさんを助けようとする。しかし、武君の足元は崩れ、絶体絶命を迎えていた。
「おろせ。」
「?」
「剣士としての俺の誇りを汚すな。」
「でも…よ、」
「う"お"ぉいっ、うぜぇぞ!!」
スクアーロさんは武君を蹴り、鮫のいない方は飛ばした。血の匂いに反応して、鮫がスクアーロさんに迫る。
『スクアーロさんっ!!』
「ガキ…剣のスジは悪くねぇ。あとはその甘さを捨てることだ。」
『嫌、嫌です…っ、誰かスクアーロさんを…っ!!』
「花莉。」
『!!』
「悪ィなあ。もらって、やれねえ…。」
『…!』
その堂々たる姿は、水の中へと消えていった。水面には赤色が揺蕩い、広がっていく。
「ぶはーっははは!!最後がエサとは、あのドカスが!!…過去を一つ清算できた。」
彼は誇り高い剣士のまま死んでいった。それがどうしたと言うのだろう。まだ消えていくには早い命が、散っていったのだ。涙を流しても、もう戻らない人となってしまった。
「雨のリングの争奪戦は山本武の勝利です。それでは次回の対戦カードを発表します。」
何の意味があるというのか。命を懸けてこの戦いをする意味を私にはまだ理解できない。
「明晩の対戦は…、霧の守護者同士の対決です。」
もう、立ち止まってもいいだろうか。