君の目覚めを待っていた
「おやおや、これでは眠れる森の何とやら、ですね。」
足元に広がるイバラに思わず苦笑する六道骸。以前来た時とは思えないこの現状に小さくため息をついた。空は星が見えないし、赤い月が登っている。これはまたずいぶん厄介な夢に引きこもってしまったと思いながら、イバラを避けながら進んだ。すると一箇所だけイバラが塊のように何かを覆っているところがあることに気づく。
「さぁ、眠り姫を見つけましたよ。」
イバラの塊は固く固く閉じられていて、中の様子は見えなかった。骸はそっとその塊に話しかける。
「花莉、開けてください。」
彼は無理矢理こじ開けることも出来た。しかしそれをしないのは、この夢は花莉の心だからだ。このイバラも彼女の心。無闇に傷つけたり、こじ開けようとすると彼女の心に影響する。
「花莉、骸です。」
そう言うとゆっくりゆっくりイバラは人が1人通ることのできるように避けていった。骸は奥へと進むと、中で眠っている少女の姿を見つけた。
「花莉、起きてください。」
『んぅ………、むくろ…くん…?』
「お寝坊さんですね。いつまで寝ているつもりですか?」
骸は花莉を横抱きして座る。花莉はまだぽやぽやとした表情で、完全に起きてはいなかった。
『苦しいの…、』
「苦しい?」
『誰かが傷つくたび、心が苦しくなる…、最近は…ずっと、苦しくて……、』
「…、」
『もう……疲れちゃった………、』
諦めたように呟く彼女の姿に自分を重ねた骸。あまりに痛々しい姿で見ていられなかった。優しすぎる彼女にとって、今行われている戦いは酷だ。そして彼女を通して知った、彼女の役割も。逃げることを許されず、縛られている。
「そうですか、ならばずっとここにいますか…?」
『え…?』
「貴女が望むのなら、僕も一緒にいます。永遠にね。」
骸は彼女を叱咤するつもりも励ますつもりも毛頭ない。彼女の心を壊さないように優しく、包み込むように語りかける。
「ですが…ここにいればもう二度と会えませんよ。」
『誰に………?』
「貴方の委員長です。」
わずかに見開かれた曇った瞳。雲雀恭弥のことを出すのは癪だと彼は思っていたが、今一番彼女の心に響くのは彼のことだと骸はわかっていた。
『いい、ん、ちょう…。』
「もう二度と、会えなくなりますよ。それでもいいですか?」
少し俯き、黙ってしまう花莉。そんな彼女を見て、骸は優しく微笑む。
「花莉、確かに誰かを失うことは恐ろしいです。乗り越えることも難しいかもしれません。ですが、貴女は独りですか……?」
『!!』
骸の問いかけに花莉は首を振った。骸の言葉に花莉の瞳は段々と光を取り戻していく。真っ暗な夜空は美しい星空に、赤い月は黄金に。
「貴女は独りではありません。共に乗り越えてくれる者がいる。だから、前に進んでください。貴女なら乗り越えられる。」
『うん…っ、うんっ…!!』
ポロポロと涙を流す頃には、花莉の美しい世界は元に戻っていた。涙を流す花莉を、骸は愛おしげに抱きしめていた。
『骸君、ありがとう…。』
「全く、私が来なければ永遠に眠りにつくところでしたよ。」
『ご、ごめんなひゃい…、』
骸は花莉の頬をむにぃと引っ張る。頬の伸びた彼女の顔を見て骸は笑う。
『そういえば、槍のカケラ持ってなかったのにどうしてここに来ることができたの?』
「XANXUSが貴女に持たせたんですよ。」
『ええ…!?』
「メイドが貴女の制服のポケットに入っていたカケラが光っていることに気づいて、XANXUSの元へ持っていったんです。カケラを見つけて貴女の手に握らせていましたよ。」
『ま、待ってください…、私もしかして結構寝てるんですかね…?』
「今は15時ほどじゃないでしょうか。」
『!!か、帰らないと…!』
「もう厄介な夢に囚われないでくださいね。」
『うっ、肝に銘じます…。あ、骸君、さっき言ってくれたこと嘘でも嬉しかった。ありがとう…!』
「!!…いいえ、また会いましょう、花莉。」
こうして花莉は世界から消えた。取り残された骸は小さくため息をつく。
「自然に出てきてしまったんですがね…。本当に不思議な子だ…。さぁ、今日はあの娘の晴れ舞台ですからね。体力を温存して起きましょうか。」
***
『ん…、』
「!!…花莉が起きたよボス。」
目を覚ますと、私のそばにマーモン君がいた。長い間寝ていたため体がガチガチになっているが、グッと力を入れて起き上がった。
『私…、』
「おせぇ。」
XANXUSさんは私を横目に部屋から出て行った。ああ、お礼を言えなかった。私はそっと手を開き、槍のカケラを確認する。これがなかったら私は永遠に眠っていたかもしれない。考えただけでゾッとした。
「貴様!ボスの手をかけさせるとは!」
「おい、王子の手もちょー煩わせたけどお前覚悟できてる?」
「こんなこと言ってるけど2人共君が目覚めないからそわそわしてたよ。」
『ご、ごめんなさい。ご迷惑おかけしました。』
放っておくという選択肢や他の者に任せるという選択肢もあったのに、彼等自身が私を起こそうとしてくれたのか。彼等も人間らしいところがあるんだなぁと失礼なことを考えてしまった。
『あの、お聞きしたいことが…、』
「なんだい?」
『体中が傷だらけだし痣だらけなのはなんでですか…?それに全体的にびちょびちょに濡れてるし…。』
私がそう問うと3人は揃って私から目をそらす。起こそうとして色々してくれたのはありがたいが何故こんなに体中が痛いのだろうか。打撲傷、切り傷、頭もびっちょりと濡れ、心なしか体もビリビリとしている。何をどうしたらこうなるんだ。
「しししっ、まぁこんなもんで済んでラッキーだろ。」
「レヴィは私怨が混ざってたけどね。」
『へえ…。』
「そ、そんなことはない!!」
『…でも、ありがとうございました。』
少しぎこちなかったかもしれないが、出来るだけ笑ってお礼を言った。まだ悲しみは消えないけれど、私は前に進まなければならないんだと思う。今日もどんな戦いになるかはわからない。でも、私は見届けよう。最後まで。