あぶくに消える

「クフフフ、随分いきがっているじゃありませんか。マフィア風情が。」

ボコボコと地面が割れ、マーモン君は攻撃を受けて落下する。霧が晴れて現れたのは骸君だった。

「お久しぶりです。舞い戻ってきましたよ…輪廻の果てより。」

『骸君…、』

無意識に三叉槍のカケラを握る力が強くなる。彼は一月程前、復讐者<ヴィンディチェ>の牢獄の脱走を試みたが、失敗に終わり光も音も届かない最下層の牢獄に入れられてしまったという。

「クフフフ、ボンゴレが誇る特殊暗殺部隊ヴァリアーの情報網もたかが、知れてますね。」

「ム、」

「現に僕はここに在る。」

「面倒くさい奴だなぁ。いいよ、はっきりさせよう。君は女についた幻覚だろ。」

マーモン君の力で体育館は吹雪き始めた。あまりの寒さに両腕で自分の体を抱きしめる。だが、そんなものは何の役にも立たなかった。

「ゴーラ・モスカ。」

「フシュー。」

『!!』

XANXUSさんの声にゴーラ・モスカが私の前に立ち、吹雪から私を守るように盾の役割をしてくれた。

『XANXUSさん、ありがとうございます。』

「ふん…、」

ゴーラ・モスカが前にいてくれるおかげで幾分寒さもマシになった。骸君は完全に凍ってしまい、凍った彼に向かってマーモン君が突っ込んでいく。マーモン君の顔はハンマーのようになっていて、あれで氷を砕かれてしまったら骸君もひとたまりもない。しかし骸君に突っ込んでいったマーモン君は蓮の蔦に捕まり、締め付けられる。いくつか咲く蓮の花はとても美しかった。氷は溶けて骸君も自由になる。明らかにマーモン君を圧倒していた。

「さぁ………どうします?アルコバレーノ。のろのろしているとグサリ…ですよ。 」

穏やかに笑う彼は怖かった。やはり彼は並中生を襲撃した時の残酷さを持ち合わせている。優しい彼ももちろん知っているが、恐ろしさを持つ彼も忘れてはいけないのだ。

戦いもいよいよ大詰めを迎えていた。マーモン君は力を使い、空間をぐにゃりと歪ませる。それは今までのどの幻覚よりも力の強さを感じた。

「クハハハ!強欲のアルコバレーノですか。面白い…だが、欲なら僕も負けません。」

筒状のように歪んだ体育館から何本もの火柱が現れる。

「す…すんげっ!」

「夢でも見ているのか…、う…うぷ。」

『何、気持ち悪い…っ、』

気分が悪くなり、かろうじて存在した足場に膝をついた。ズキンと頭痛がし始める。その頭痛はどんどん強くなっていった。

『うっ、痛い…っ!!』

「おい、どうした。」

頭上からXANXUSさんの声が聞こえるけど、あまりの痛みに顔を上げることしか出来ない。痛む頭を抱え、ギュッと目を瞑る。

ゴポッ…

目を開ければ、水の中にいた。小さなあぶくが、天へと上っていく。自然と足を動かし、泳いでいくと何か大きなカプセルのようなものを見つけた。その中には、鎖で繋がれ、目を瞑る青年の姿がある。

『や、だ…頭に何か入って、』

頭に流れができたのは骸君、城島君、柿本君だった。それは彼の記憶。骸君は城島君と柿本君も逃がすために囮になって捕まった。そして光も音も届かないあの場所へ入れられてしまったんだ。

また違う記憶が流れ込んでくる。それは綱吉君のお父さんが、クロームちゃんに会っている時の記憶。体はクロームちゃんだが、精神は骸君のようだった。自分が霧の守護者になる代わりに城島君と柿本君を保護することを綱吉君のお父さんに伝えていた。

『骸君…っ、』

あの時、仲間の体を好き放題戦わせていて、冷たい人だと思った。でも違ったんだ。骸君にとって、城島君や柿本君、そしてクロームちゃんは大切な人で絶対守りたい存在だったんだ。

私はそっとカプセルに触れた。彼の犯した罪は重い。それでも、彼に笑っていてほしい。彼に幸せになってほしいよ。

『骸君…っ!!』

私の声はあぶくに溶けて消えた。聞こえるはずがない。私はここに実在しないのだから。

「…、」

『!』

彼の目がうっすらと開いた気がした。わずかな隙間から覗かせたその青に、私は泣きそうになった。

「花莉。」

『…はっ!!わた、し…、』

私を呼ぶ声に我に返る。今のは一体なんだったのだろうか。私はXANXUSさんの方へ向き、大丈夫だと伝えた。

私が意識を飛ばしている間に、マーモン君は骸君を大きな布のようなもので包み込んでいた。まるで大きな風船のようだ。そしてそこに巻きガエルがトゲを出してギュッと骸君ごと締め付けた。確実にそのトゲが骸君に刺さっている。

「…!バカな!!」

マーモン君の動揺した声が聞こえた直後、布のようなものが無残な姿で飛び散り、中から蓮の花に囲まれた骸君が出てきた。

「堕ちろ。そして巡れ。」

骸君の手には二つのハーフボンゴレリングがあった。圧倒的な勝利だ。彼がリングを一つにしようとすると、マーモン君は諦めずに骸君の前に立つ。しかし、その抵抗さえ、意味はなさなかった。幻覚を幻覚で返されてしまえば、もう骸君の世界からマーモン君は抜け出すことはできない。マーモン君は完全に負けた。

「これで……いいですか?」

今度こそ、骸君は完全な霧のボンゴレリングを手にしていた。マーモン君が粉々に破裂したことに動揺を隠せずにいたが、どうやらマーモン君は逃げることができるよう力を残していたらしい。死んでいないことがわかり、ホッとする。

「ゴーラ・モスカ、争奪戦後マーモンを消せ。」

「まったく君はマフィアの闇そのものですね、XANXUS。君の考えている恐ろしい企てには僕すら畏怖の念を感じますよ。」

「…、」

「なに、その話に首を突っ込む気はありませんよ。僕はいい人間ではありませんからね。…ただ一つ、小さく弱いもう1人の後継者候補をあまりもてあそばない方がいい。」

XANXUSさんは反応はせず、その赤い瞳で真っ直ぐに骸君を捉えていた。

「ああ、あとあまり僕の大切な人をいじめないでくださいね。今は立て直していますが、脆いのは変わりませんから。」

『!』

「花莉様、勝者に指輪をはめてください。」

『はっ、はい…!』

私は骸君のそばに駆け寄って指輪を受け取った。彼の指に指輪をゆっくりはめていく。

「クフフ、ありがとうございます。」

『こんなにすぐ会えるなんて思わなかった。』

「ちょっとしたサプライズです。もう体は大丈夫ですか?」

『うん。ありがとう骸君。』

私と骸君が話していると隼人君が警戒心丸出しで骸君を睨んでいた。

「てんめー!どの面下げてきやがった!」

「おい!獄寺!!」

「それくらい警戒した方がいいでしょうねぇ。僕もマフィアなどと馴れ合うつもりはない。僕が霧の守護者になったのは君の体を乗っ取るのに都合がいいからですよ。沢田綱吉。」

「と、とりあえず…あ…ありがとう。」

「フ…、少々…疲れました…、この娘を…、」

ふらりと倒れそうになる骸君を私は支える。頼みます、と声にならない声で伝えてくれた。骸君は再びクロームちゃんへと戻っていく。クロームちゃんの指には私が先ほどはめた指輪がしっかりと残っていた。

『お疲れ様、クロームちゃん、骸君。』

小さな寝息を立てる少女をそっと床に寝かせてあげた。城島君と柿本君は無情にもクロームちゃんを置いて帰っていってしまった。骸君じゃないからって酷すぎる。でも彼等はその距離感がいいのかもしれない。

「勝負は互いに3勝ずつになりましたので、引き続き争奪戦を行います。」

「明日はいよいよ争奪戦守護者対決最期のカード。雲の守護者同士の対決です。」

雲の守護者対決、ということは委員長がついに戦うようだ。そしてヴァリアーからはゴーラ・モスカが戦う。リボーン君はXANXUSさんに対し、もしゴーラモスカが負けた時は後継者としての全ての権利を放棄するのか問う。XANXUSさんははゴーラ・モスカの勝利の疑わないような口ぶりでリボーン君の問いに答えた。

『委員長…。』

やっとここまで来た。長いような、短いような戦いだった。傷つく者が多く、失った者もいた。どうか明日の戦いは委員長が勝ちますように。そして、この指輪争奪戦が終わりを迎えますように。