その目に映せ

*ベルフェゴールside*

チェルベッロに連れてこられた女は、どこにでもいそうな普通の女だった。何故あの場に連れてこられたのか本人も分かっていない様子で、戸惑いの表情を隠せずにいた。しかし蓋を開けてみればマフィアなら全員知っている星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>だという。まさかあんな女が?と思ったが、あの星空を映した瞳を見れば信じざるを得なかった。

だが、話してみても普通の女。マフィア一家の娘とは思えない鈍臭さ。確実に一般人寄りだ。ヴァリアー側に来た時は、偉そうにしたらサボテンにしてやろうかと思ったが、そんな様子は見せなかった。俺をベル様と呼び、敬語を使う。だからといってへこへこするわけでもないし、言いたいことはわりと正直にいう奴だった。

不思議と不快ではなかった。花莉はいじり甲斐もあるし、表情もコロコロ変わって飽きない。ただ、俺達ヴァリアーのために笑ったことはなかった。あいつらの前では笑うのに。そう思ったらなんだか胸のあたりがじくじくと焼けるような感覚になった。

オカマもマーモンもスクアーロもいなくなったここは静かになった。普通に退屈だ。テラスに行けば花莉が百面相をしながらぐるぐると歩き回っている。

「お前何やってんの?」

『うわぁっベル様…!』

「驚きすぎだろ。気配読めよ。」

『私に読めるとでも…?』

「無理だな。」

ボスが花莉を気にいるのは予想外だった。今はボンゴレ10代目になることしか考えてねーし、100歩譲って気にいる女が出来たとしてもこんなちんちくりんとは思えない。星空の娘として利用価値があるという理由もあるだろうが、それが全てではないことは俺でもわかった。

『足…まだ痛みますか?』

「ししっ、よゆー。」

『良かった…、』

花莉は誰かが傷つくことを嫌っていた。花莉にとって俺達は敵なのに、自分のことのように心を痛め、涙を流す。花莉が襲われた夜、すぐに襲った奴のファミリーを潰した。そのことを知った花莉はこのテラスで泣いていた。それはもう見ているこっちが痛々しくなるくらいに。自分が襲われたのに何故涙を流す必要があるのだろうかと神経を疑った。馬鹿だとも思った。あんな奴らのために流す涙がもったいない。

「今日お前のイインチョーが戦うんだろ?」

『そうみたいです。怪我がなければいいですけどね。』

「無理じゃね?ボスすげー自信満々だったじゃん。あいつ死ぬかもな。」

俺がそう言えば、ムッとして怒るかと思った。だが花莉は、怒らなかった。むしろ、何か呆れたように笑った。

『あの人は殺しても死にませんよ。』

その表情は俺に向けられたものではない。澄んだ星空は、俺を見ていなかった。ああ、また胸のあたりが焼けそうだ。腹立たしい。こんな顔をさせるくらいならいっそ泣かせてえな。ぐちゃぐちゃになるまで、虐めて、泣かせてやりたい。俺しか映らないようにしてやりたい。

『ベル様…?』

ヴァリアーらしく、マフィアらしく奪えばいい。欲しいものは力ずくで手に入れる。そういう世界だ。花莉をあいつらから奪ったらどんな顔をするのだろうか。

『ベル様、もしかしてマーモン君いなくなっちゃって寂しいんですか?』

「は?」

『大丈夫ですよー。マーモン君戻ってきますよ。きっとXANXUSさんが怖くて戻らないだけですって。』

真面目な顔をして的外れなことを言いはじめる花莉。アホすぎて笑いが込み上げてきた。

「しししっ、お前ホントアホだよな。」

『失礼な!ダイレクトな悪口やめてくださいよ!』

「俺に指図するなんて100年はえー。」

『ナイフ出さないでください!』

マフィアらしく奪うのは今じゃなくてもいい。今日勝利をすればどちらにしろ花莉は俺達のものになる。

アホ面の花莉の腕を掴み、自身に寄せた。そして、かぷりと唇を噛んでやった。俺を見ない罰だ。これで少しは俺を映せ。ずっと俺のことを考えていればいい。

『なっ!?』

ほら、真っ赤な顔して俺を見た。