すり抜ける雲

「そうか…、あれを咬み殺せばいいんだ。」

そういった彼は、トンファーを構えて笑った。あの人らしい、楽しそうな笑顔だった。

雲の対決は運動場で行われる。運動場には有刺鉄線に囲まれたフィールドが用意されていた。まるで戦場のような過酷なフィールドだった。

「まるで戦場ではないか!」

「怖けりゃ逃げろ。」

「!?」

「てめーらのボスのようにな。」

「しししっ。」

「ふざけんな!10代目は逃げたんじゃねぇ!!!」

『あーっ!!足が滑りましたー!!』

「ぬおっ!!!」

レヴィさんが挑発するようなことを言うもので思わず足をむぎゅっと踏んだ。睨まれたがサッとベル様の後ろに隠れる。綱吉君が逃げていないことなんて私でもわかる。彼はまだ修行をしているのだ。最悪の事態に備えて。

「それでは始めます。雲のリング、ゴーラ・モスカVS.雲雀恭弥。勝負開始!!」

その合図の瞬間、ゴーラモスカは委員長に向かって飛んで行った。そして、手から銃を撃つ。ぎゅっと目を瞑り、委員長の勝利を祈った。直後、大きな音が鳴り、爆発音が鳴り響いた。そっと目を開けると、委員長がハーフボンゴレリングを一つに合わせている。

『へ………、』

「な………、」

「え…、」

誰もが目を疑った。一体誰がこんな結末を予想しただろうか。すでにゴーラ・モスカはスプラッタ状態。委員長はボンゴレリングをいらないと言って審判に渡しているではないか。

「さあ、おりておいでよ。そこの座ってる君。サル山のボス猿を咬み殺さないと帰れないな。」

『ひいい委員長っ!!大人しくしててください!!口は災いの元ですー!!!』

「うるさい。君から咬み殺すよ。」

ダメだ、もうああなったら誰も委員長を止められない。最初からXANXUSさんと戦うつもりで来たんだ。そしてまたXANXUSさんもこう言われて大人しくしている人ではなかった。彼は委員長に向かって蹴りを入れようとする。が、委員長はトンファーで防いだ。こうして委員長とXANXUSさんの戦いは始まってしまったのだ。

「足が滑った。」

「だろうね。」

「ウソじゃねぇ。」

直後、XANXUSさんの足元で地雷が爆発する。彼はそれを素早く避ける。

「そのガラクタを回収しにきただけだ。オレ達の負けだ。」

「ふぅん。そういう顔には見えないよ。」

委員長は遠慮なくXANXUSさんに攻撃していく。いつガトリングの弾に当たるかわからないというのに自由すぎる。ハラハラしているこっちの身にもなってほしい。

「安心しろ。手は出さねぇ。」

「好きにしなよ。どのみち君は咬み殺される。」

「おのれ〜〜〜〜!ボスを愚弄しおって!!」

「待てよムッツリ。」

「ムッツリ!?」

「勝負に負けた俺らが手ーだしてみ。次期10代目への反逆とみなされ、ボス共々即うち首だぜ。」

ベル様は冷静だった。どうやらXANXUSさんが何か企んでいるのではと踏んでいるらしい。それが本当だったら委員長は危ないんじゃないだろうか。妙な胸騒ぎがする。

「チェルベッロ。」

「はい、XANXUS様。」

「この一部始終を忘れんな。俺は攻撃してねえとな。」

XANXUSさんは深い笑みを浮かべた。その直後、委員長の足にビームのような何かが当たる。

『委員長っ…!!』

膝をつく委員長の足からは血が出ている。一体何が起こったのだろうか。そう考えている暇もなく、なぜかミサイルが私達のいる場所を目掛けて飛んでくる。

「やっべ。」

『わっ、』

私はベル様に手を引かれ、間一髪ミサイルの被害は受けなかった。レヴィさんは巻き込まれたが多分大丈夫だろう。どうやら隼人君や武君達の方にもミサイルが飛んでいたらしい。

「なんてこった。俺は回収しようとしたが、向こうの雲の守護者に阻まれたため
モスカの制御がきかなくなっちまった。」

『!!』

ゴーラ・モスカが暴走し始めてしまったのだ。無差別に色々なところを攻撃し、この場は本当に戦場と化してしまった。足を怪我した委員長はまだその場にいる。あの怪我では攻撃が来たら避けることは出来ない。でも私だったら…!

「おい!」

ベル様の声が聞こえたが、私は一直線にフィールドに走った。有刺鉄線も壊れているため、フィールド内に入ることができる。地面の爆弾を踏めば終わりだ。だが私には踏まない自信があった。

「花莉様っ!危険です!!お下がりください!!」

『委員長…!』

「危ないでしょ。何来てんの。」

『たぶん、爆弾も踏まないし、私にはミサイルも当たりません。運だけは良いんです。』

声が震えてしまった。怖くないわけない。でも、委員長を放っておくことはできない。私は足元に落ちている委員長の学ランを拾い上げ、彼を支えながらフィールドの外へと向かった。直接は当たらないが、爆風の影響は受ける。よろりと倒れそうになりながらもなんとか踏ん張った。

「ししっ、なんであいつには当たらねーんだよ。」

「ミサイルがあの女を避けているだと!?」

何とかフィールドの外に出ることができた。私はフィールドから少し離れた場所に委員長を連れて行く。学校はボロボロだった。ゴーラ・モスカの暴走を誰も止めることはできないのだ。

『委員長、足見せてください…っ、』

委員長の太腿辺りから血が流れている。私はハンカチを取り出し、ぎゅっと結んで止血した。

『もうっ、委員長のばか…っ!』

「泣かないでよ。少し怪我しただけなんだから。」

『まだ泣いてないです!もう少しで死ぬところだったんですよ!?ミサイルが当たってたらどうしてたんですか…っ、もう…っ!』

涙が溢れそうになったが、グッと堪えた。まだこの状況が変わったわけではない。だけど、変えてくれるような希望が舞い込んできた。綱吉君だ。彼は額と両手に炎を灯して、修行から帰ってきたのだ。

綱吉君はゴーラ・モスカの動きを見抜きながら戦っていた。恐ろしい暴走をものともせず、その拳をふるった。渾身の一撃がゴーラモスカに当たり、ゴーラ・モスカは地面に叩きつけられる。それでもゴーラモスカは綱吉君に向かっていった。綱吉君は片手でゴーラ・モスカを止めて、右手の炎で頭から一直線に焼き切った。するとゴーラモスカは膝をつき、止まった。焼き切られた胴体から何かが音を立てて落ちてくる。

それは、頑丈に拘束された、老人であった。