似ているぼくたち
『すー、はー、』
「何かあったらお呼びください。」
『はい、ありがとうございます。』
大きく深呼吸をし、病室のドアに手をかけた。ゆっくりとドアを開けると真っ白な空間に、ベッドが1つ。とても広い病室なのに、何もなかった。窓すらない、隔離された場所。そっと近づき、ベッド側の椅子にそっと座る。輸液ボトルからチャンバーへポタポタと液体から落ちている。もし私がこの場にいることになったら液体の落ちた回数とか数えて暇を潰してそうだな、とどうでもいいことを考えてしまった。
彫りの深い顔、彫刻みたいな美しい顔立ちで眠る彼。同じ部屋で何日か過ごしたことはあったけど、彼の寝顔なんて見たことはなかった。私の方が先に寝て、彼の方が先に起きていたから。彼の寝顔を見るなんて、この瞬間が最初で最後かもしれない。
戦いが終わった翌日に、彼の元を訪れるなんて、私はどうかしてる。というかよく通してくれたなあと思う。星空の娘だからだろうか。だが、私はここに着た理由はただ1つ。彼に謝りに来たのだ。リボーン君に頼み、リボーン君が綱吉君のお父さんに取り合ってくれた。綱吉君のお父さんはイタリアから帰ってきたばかりで色々大変みたいだ。そんな中でこうした機会を与えてもらった。
お見舞いも兼ねて訪れたが、昨日の今日で彼もまだ目覚める様子はなかった。今日は帰って、また明日訪れようか。いや、何回も来ても迷惑なのだろうか。うーん、と頭を抱えて悩んでいると、視線を感じた。そろりと彼の方を見れば、赤い目が私を捉えていた。
『あ、えと、おはよう…ございます…、XANXUSさん…。』
「……………何しに来た。笑いに来たか。」
ふい、と私から目線を外し、天井を見つめる彼。彼の一言が重くて臆しそうになったが、ぎゅっと拳を握って、彼を見た
。
『謝りに…来ました…。』
「………バカにしてんのか。」
『違います。』
「…、」
『親子喧嘩に…口を出して、すみませんでした。』
私は上半身を折り曲げ、謝罪した。これが私の謝りたかったこと。9代目とXANXUSさんの間において、私は無関係。それにも関わらず、私はあろうかとか口を出して彼に怒鳴りつけた。彼等にすれば余計なお世話の一言に限るだろう。
「………んなくだらねぇこと言いに来たのか。」
『正直、自己満足です。謝りたかったのはXANXUSさんに許してほしいからじゃありません。』
「…………フ、てめぇが許してほしいなんて言いやがったら、殺してやった。」
『え………、』
私はどうやら一歩間違えば灰になっていたらしい。想像しただけでゾッとした。とりあえず殺されなくて済むらしい。
「平手打ちは謝らねぇのか。」
『え、いや、それはちょっと…、あれはXANXUSさんが悪いというか…、』
「ハッ、この先語り継がれるだろうな。ボス候補を平手打ちした女とな。」
『それは嫌です…!』
「諦めろ。」
XANXUSさんは小馬鹿にしたように鼻で笑った。本当に語り継がれたらどうしよう。こんな屈強な男を平手打ちした女なんてゴリラとして語り継がれるに違いない。
『私、XANXUSさんに自分を重ねてたんだと…思います。』
「…、」
『私も、両親だと思ってた人は、本当の両親じゃなかったんです。知った時は悲しかった。でも、血のつながりがなくとも、私を育ててくれた人達は私を愛してくれました。それで十分だなって思ったんです。』
「俺とてめぇは違う。」
『そうです、私とXANXUSさんは違います。育ち方も愛され方も。だからこそ、XANXUSさんだけが知っていることがあるはずです。って、私は偉そうに言える立場ではないんですけどね…。』
「てめぇはずいぶん図太くなったな。」
『す、すみません…。』
XANXUSさんは呆れたように小さく笑った。2人の間に沈黙が流れる。それはとても穏やかなもので、息苦しくはなかった。
「おい、手を貸せ。」
『は、はい。』
私はXANXUSさんの方に手を差し出した。すると、彼は大きな手で私の手を握る。
『な、なんですか。』
「俺に平手打ちした手をよく覚えておこうと思ってな。」
『そんなこと覚えなくていいです…!』
「……てめぇが隣にいりゃ、何か変わってたんだろうな。」
『え…?ごめんなさい、よく聞こえなくて、』
「なんでもねぇ。そろそろ帰れ。じじぃんとこ行くんだろ。」
彼は私の手を離し、再び目を瞑った。もう彼に会うことはないかもしれないし、また会うことがあるかもしれない。それはきっとこれから決まることで、私には関係のないことなんだと思う。それでも、
『XANXUSさん、また、会いましょうね。』
「…、」
彼からの返事はなかった。XANXUSさんもわかっているのだ。もう会うことのできる保証はないということを。私は椅子から立ち上がり、病室を後にする。
「また……か、………花莉、」
優しく、穏やかに呟くその声は誰の耳にも届くことはなかった。