僕が何度でも好きと言うから
自分が何者かなんてどうだってよかった。この瞳だって、隠せば何でもなかったのに。こんなことになるなら何も知らずに生きていたかった。もうそんなことを思っても全て無駄だけれど。
「本当に大丈夫?」
『大丈夫だよおばさん。もう一人で寝られない子どもじゃないんだから。」
「でもなぁ、そうは言ったってお前が体調を崩すなんて珍しいじゃないか。」
『おじさん、きっとすぐに良くなるから。明日からまた学校に行くし。心配しないで。ほら、二人ともお仕事行ってらっしゃい!』
昨日の出来事があってとてもじゃないが学校に行く気分にはなれなかった。私は学校を休むことにし、心配するおじさんとおばさんを見送った。おじさんとおばさんが出ていくのを確認し、はぁ、とため息をつく。
昨日は委員長に本音をぶちまけて泣くだけ泣いた後寝るという痴態を晒してしまった。どうやら委員長は私を家まで送ってくれたようで、おじさんとおばさんに彼氏なのかと勘違いされた。誤解を解くのがとても大変だった。
『夜…11時かぁ。嫌…だなぁ…。』
日が暮れることをこんなにも恐ろしく感じたことはない。日が暮れて月が登りきる頃には戦いが始まってしまう。私はその戦いを見届け、勝者に指輪をはめなければならない。だが私ばかりが文句を言うわけにはいかないのだ。戦うのは綱吉達であって私ではない。
私は自分の部屋に戻り、ベッドに仰向けになって倒れた。寝てしまうとあっという間に時間が経ってしまいそうなので寝ることは出来ない。ただ、時計の針が進むのをジッと見ていた。
もう正午を過ぎた頃、インターホンが鳴り響いた。ドアを開けると、そこにいたのは綱吉君の友達のバジル君の姿だった。
『バジル…君?』
「突然申し訳ありません。リボーンさんに花莉様の様子を見にいくよう頼まれたので、参りました!」
『リボーン君が…。えと、とりあえず上がって。』
私が学校を休んだことを知っているのだろうか。心配してバジル君を寄越したのか逃げないように寄越したのか気になるところだ。とにかく来てもらったからには追い返すことも出来ないので家に通し、お茶を出した。
「お、お構いなく!」
『バジル君は丁寧だね。言葉に少し時代を感じるけど。どこで日本語習ったの?』
「親方様からです。日本の文化を教えていただきました。」
『そうだったんだ。』
面白がってこの言葉を教えたのかな、という考えがよぎった。私はお茶を一口喉へと流し込む。温かさが体に染み渡り、少しだけ落ち着くことができた。
「あの、花莉様は大丈夫ですか?」
『えっ、あ、不安…かな?』
「そう…ですよね。すみません。」
『ば、バジル君が悪いわけじゃないから…!ごめんね!』
「いえ、不安になるのは当たり前です。花莉様は今までこの世界とは関係のない世界で育ってきたのですから。」
バジル君は少しだけ目を伏せて、お茶を啜った。所作が綺麗で少しだけ見入ってしまう。こんな子も命をかけて戦う世界にいるのだから不思議だ。
『私、ね、この目がずっと嫌いだったんだ。』
「え…、」
『小さな頃から気味が悪いって言われてね。中学に上がる前までずっと友達が出来なかったんだ。中学からコンタクトをつけてやっと友達が出来たの。私立の小学校から公立の中学校に上がったから、私のこの目を知る人はいなかった。やっと私の居場所が出来たんだって嬉しかったの。』
「…、」
『でも、やっぱり何年経ってもこの目は好きになれなかった。今でもなくなってしまえばいいって思ってる。薄情者でしょ?親からもらった目をいらないだなんて。』
私は自嘲気味に笑った。何を話しているのだろうか。まだ会って間もない人に。こんなことを言われても困ってしまうだろうに。
「花莉様、」
バジル君は私の名を優しく呼び、私の隣で正座をした。私が星空ならバジル君は澄んだ青空の瞳なのだろうか。彼の綺麗な目は情けない私の顔を映している。
「貴女が嫌うその目が拙者は好きです。」
『!』
「美しいと思いました。その目に煌めく星空が。貴女が嫌いと言うのなら、拙者はその2倍、好きだと言いましょう。貴女がいつか好きになれる日まで。…拙者は貴女の星空を大切にしたい。」
『それは…私が星空の娘だから…?』
「いいえ、花莉様だからです。」
目を細めて笑う彼が、とても綺麗だと思った。真っ直ぐと私を見る目が、その言葉に偽りがないのだと教えてくれる。私はいつかこの目を好きになれる日が来るのだろうか。
「花莉様。」
彼はおもむろに腕を広げた。私は彼が何の目的で腕を広げているのかわからなかった。
『何で腕を広げるの?』
「はぐ、です。日本の女子(おなご)はこうするといいと親方様から教えていただきました!」
『ハグっ!?』
何を教えているのだろうか綱吉君のお父さんは。こんなことを他の女の子がバジル君にされたら勘違いしてしまう。ここは年上としてきちんと教えてあげなければ。
『バジル君それはね、好きな人や家族にするのがいいんだよ。』
「好きな人…、拙者は花莉様が好きですよ?」
『違う!好きの意味が違うの!』
バジル君は純粋なのか天然なのか、それとも両方なのか。きょとんとして首をかしげる彼を不覚にも可愛いと感じた。
「花莉様ははぐ、嫌ですか?」
『嫌と言うか恥ずかしいかなぁ。』
「そうですか…なら、」
彼は私の髪を一房手にし、唇を落とした。少し挑戦的な目に心臓がどきりとしてしまう。
「恥ずかしくなくなったら、させてくださいね。」
ポポポと顔に熱が集中する。やはり私はイタリアの男に勝てそうにもない。午後13時、いつのまにか胸に溜まっていたモヤモヤした気持ちは何処かへ消えてしまっていたのだった。