正しさなんて知らない

目の前で皆死んでいった。私だけが生き残ってしまう。その役目を終えるまで、私は死ぬことを許されない。何故だ。力を欲し、権力を欲し、誰もが私を求めた。憎い、憎くてたまらない。地位や権力、他者をねじ伏せる力を求める愚かな奴等も、この苦しみから逃がしてはくれないこの血も、そして、結局周りを不幸にしてしまう自分自身も−−−、

『ぁあぁああああああ!!』

誰の感情なのかわからない。悲しみ、怒り、憎しみ。負の感情に心が奪われていく。断末魔が頭の中で鳴り響く。"私"に助けてと求めるのに、何もしてあげられない。目の前で朽ち果てていく命を見届けるだけ。

「あーあ、だから会わせなかったのに。壊れちゃうかなあ。」

白蘭は花莉が部屋を出てからその動向をずっと監視カメラで眺めていた。あの花莉がまさか部屋を出ようとするとは思わず、その様子を楽しんで見ていたのだ。しかし、ある部屋に入ってしまい少々急いで駆けつけた。何故なら白蘭は椅子に座る少女と花莉を会わせればどうなるか知っていた。他の世界でもすでに見ているからだ。少女と花莉を会わせれば必ずこうなってしまう。花莉は心を壊し、心を失った人形となってしまう。それは白蘭にとっても好都合だが、意思のあるうちにもう少し遊びたいという気持ちがあった。

「さぁ、この世界の花莉ちゃんも負けちゃうかな?」

『あぁああ!!殺さないで…っ、やめて…っ、もう誰も…っ、傷つけないで……!!!』

「だめかなあ。残念。」

そう吐き捨てた直後、彼女の胸元で何かが柔らかく光った。そしてその光はやがて大きくなり、花莉を包み込んでいった。どの世界でも見たことのない現象に、白蘭はただただ驚いていた。先程まで痛々しいほど泣き叫んでいた花莉は穏やかに眠りについた。

「へえー。こんなの初めてだよ花莉ちゃん。そこには何が隠れてるの?」

白蘭は花莉に近づき、胸元を開いた。すると、そこにはまだ僅かに光る2つのリングがある。

「ペアリング…?」

白蘭は彼女の胸元にあるペアリングに触れようとした。が、それは叶わなかった。白蘭を拒むように、そのペアリングはバチリとその手を弾いたのだ。

「ふふ、僕はだめなんだね。いいよ、あとでたっぷり花莉ちゃんに聞くからさ。」

白蘭は穏やかに眠る花莉を抱き上げて、その部屋を出ようとした。

「どうしてユニちゃんは花莉ちゃんと相性が悪いんだろうね?」

その問いに、少女はジッと花莉を見つめるだけで、答えることはなかった。