墜落した一等星

怖い夢を見ていたはずなのに、温かい何かに包まれた。温かくて優しくて穏やかな気持ちになれた。あれは一体何だったのだろう。

目が覚めると、私はいつもの部屋のベッドにいた。結局私の脱走計画は泡に消えてしまったのだ。計画というほど、考えて行動していたわけではないけれど。力を持たない私にはやはり限界があったのだ。あの女の子は大丈夫だっただろうか。あの子に触れた瞬間、体中に電流が駆け巡ったような感覚になり、額が割れるように痛んだ。頭に流れてくるのはどれもこれも惨すぎる映像で、どうにかなりそうだった。

「おはよー花莉ちゃん。」

『っ、』

ドアから白蘭さんが入ってきた。思わず息を飲む。この部屋を勝手に逃げ出し、わりと大きな騒ぎにしてしまったのだからきっと怒っているだろう。

「まさか花莉ちゃんが逃げ出すとはね。部下に扮してたのは良かったと思うよ。隊服だから何とでも言えるしね。」

『!…見てたんですか…。』

「当たり前でしょ?まぁ逃げられるとも思ってなかったけど。」

彼はにこにこと笑っているが、確実に怒っている。言葉に棘があるし、何より冷たさを感じた。

「偶然入った部屋がユニちゃんがいる部屋だったから急いで来たんだよ?君とユニちゃん相性が悪いからさ。」

『ユニ…あの女の子ですか?相性が悪いって…、』

「そうそう。どの世界でもユニちゃんと花莉ちゃんが会うとああなっちゃってね。花莉ちゃんの心が壊れちゃうんだよ。だからもう花莉ちゃんとユニちゃんは会わせないことにしたの。」

どの世界でも、ということは彼の言うパラレルワールドのことだろうか。確か、どの世界も彼のものになってしまったと言っていた。

「でも君は壊れなかった。なんでだと思う?」

『…、』

「その首にかけてるペアリングが君を助けてくれたんだよ。」

白蘭さんの言葉にバッと胸元を押さえた。中にしまっていたリングが外に出ている。彼に見られてしまった。

「そのペアリングは何かな?」

『っこれは、両親の形見です…。』

「ああ、そうだ。この世界の君のご両親は亡くなってるんだもんね。ずいぶん凄惨だったって聞くけど。」

『何か知ってるんですか…!?』

「聞いてないんだ。そっか、そうだよね。君には聞かせるわけにはいかないよね。」

白蘭さんは両親の死について何か知っているようだった。前に一度だけ、リボーン君に両親の死について聞いたことがある。しかし彼は教えてくれなかった。機が来たら教えてくれると言っていた。

『何か知ってるなら教えてください。』

「後悔すると思うよ?」

『それでもいいんです。少しでもいいので教えてください。』

「うーん、まぁいいか。じゃあ話してあげるよ。"星が落ちた日"のことをね。」

『"星が落ちた日"…、』

彼はベッドに座り、まるで子どもを寝かしつけるように静かに話し始めた。それはこの時代から24年前に遡るという。

「24年前、君の時代でいうと14年前。それは花莉ちゃんの1歳の誕生日の夜だった。メテオーラファミリーは静かに暮らし、君の誕生日会を身内だけで行なっていた。君の存在は当時伏せてあったんだよ。君の両親の希望でね。」

『…、』

「だけど、もう夜が深くなった頃、その事件は起こった。何者かが、君のファミリーを惨殺した。」

『っ、』

「それはもう酷いやり方でね。メテオーラファミリーは決して弱くはなかった。だけど、太刀打ちできなかったらしいよ。ボンゴレに救援要請を出したけれど、間に合うことはなかった。何故なら一晩…いや、一時間のうちに行われたから。」

『そんな、』

「ボンゴレがついた頃にはすでに生きているものはいなかった。ただ1人を除いて、ね。君の両親が最後の力を振り絞って君を守り抜いたんだよ。」

『どうして、私の母は…、星空の娘としての力を持っていたんじゃ…!』

「わからない?君が生まれた時点で、その力は君へと受け継がれているんだよ。もう君の母親に力なんてあるはずないでしょう?」

やはり聞くべきじゃなかったと後悔した。つまり、私が生まれた時点でその力を受け継ぐということは、私が生まれなければその事件を防ぐことができたかもしれないのだ。

「気づいちゃった?そうだよ、君が生まれなければ、君の母親は一族を守ることができた。」

『ぁ、あ…、ああ…っ、』

私が、私が−−−っ、

「君がいなければ、死ななかったのにね。」

その言葉はあまりにも鋭く、そして重く私の心を貫いた。