愛に似た何かに殺される

「君がいなければ、死ななかったのにね。」

突きつけられた真実に目をそらしたくなった。それでも、過去は変わらない。私が生まれて来なければよかったんだ。

『はぁ…っ、はぁっ、』

「花莉ちゃんの涙はいつまで経っても枯れないね。」

『っ触らないで!!』

「八つ当たりは良くないなぁ。花莉ちゃん、これ以上誰も失いたくないでしょ?」

『!?』

彼は私の二の腕あたりを掴んだ。私は隊服の上着を脱がされていたため、彼の手が触れているのは、風紀の腕章。

「これ、そろそろ捨てようか。」

『っ、』

「まさか隠して付けてるなんてね。心強かった?委員長クンがそばにいてくれるような気がした?」

『ちが、…っ、痛い…!!』

握りつぶされそうなほど、二の腕を強く掴まれる。怖い、痛い。今までにないくらい、ぴりぴりと感じる殺気。私はついに彼の逆鱗に触れたようだ。

「僕の気持ちがまだ伝わってないみたいだね。それとも伝わった上でこうしてるのかな?君が思ってるよりも僕はずーっと嫉妬深いんだからね。」

『ご、ごめんなさ、』

「そんなに委員長クンがいいなら、殺しちゃおうかな。」

『!!?』

「どちらにしろ殺すつもりではいたけどね。早々に殺しちゃった方が花莉ちゃんの杞憂も無くなるでしょ?」

『やめてください…!』

どうして、こうなってしまうのだろうか。私はただ、誰も傷つけたくないだけなんだよ。もう私のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。だったら、私が取る選択は決まっているのに、

「花莉。」

どうしてもあの声が、忘れらないの。

すぐに答えを出すことなんてできない。言葉に詰まった私は俯くしかなかった。すると、彼は私からパッと手を離し、ベッドから立ち上がる。

「まぁいいよ。もう君は二度と彼に会うことはないんだし。」

『…、』

「でも、花莉ちゃんも早く覚悟を決めないと、知らないからね。」

彼はそう言って、部屋を出て行った。心が押しつぶされそうなほど、不安が心を埋め尽くしていく。もうどうしたらいいのかわからない。

『誰か…っ、助けて…っ、』


***


『なんで今さら部屋から出すんですか。』

「んー、この間のことで花莉ちゃん監禁してるのバレちゃったからもういいやーと思って。」

脱走事件を起こした翌日、白蘭さんに連れられて部屋の外へ出ていた。一応彼にも監禁という自覚があったのが驚きだ。彼の後ろをついていくと、ある部屋に入った。そこはとても広くて、物も少ない。ソファーと机だけ。なんとも寂しい部屋だ。

「お帰りなさいませ白蘭様。お食事いかがでしたか?」

「うん、うまかったよ。ラーメンにギョウザ。」

「…そちらの女性は…、」

「ああ、星影花莉ちゃん。僕のお嫁さん。」

「お、奥様でしたか…!!」

違う違う。いつから私は白蘭さんの嫁になったの。それにしても彼は白蘭さんの部下なのだろうか。

「ところでレオ君何してんの?とうとう世話係まで任せられちゃった?」

「い…いえ…、あの…白蘭様にお仕事の話で相談が…、」

「?賃上げ要求とかやだよ。」

「いえ!…お給料には満足してます…、じ、実は一身上の都合でやめさせていただきたく…、」

こういう世界にもちゃんと退職とかあるんだ。非現実的なことが起こりすぎて目の前のやりとりがなんだかおかしく感じてしまう。

「お、それはびっくり。君の才能には期待してたのになー。」

「ま…またそんな…、」

「ホントホント。なかなかできることじゃないよ。第11部隊を退け、グロ・キシニアを黒曜に向かわせるように誘導するなんてさ。」

「は?」

なんだか話が不穏な流れになっている。話の内容は全くわからないが、黒曜やクロームというワードが出てきているのできっとボンゴレ関係なのだろう。

「もういいから出ておいでよレオ君。いや…この場合グイド・グレコ君?それともボンゴレの霧の守護者かな。」

「ボンゴレの…霧の守護者…ですか?」

「うん。六道骸君。」

『!!』

「はぁ?白蘭様、一体…それは…いつから?」

ぞわりと全身に鳥肌が立つ。レオ君と呼ばれた彼は先ほどとは別人のように話し始めた。白蘭さんの言うことが確かなら、この人は−−−、

「お互い相手の腹を知りつつ知らぬふりをしていたわけだ。」

「あなたが入江正一に知らせなければもっと遊べたんですがね。」

「よく言うなぁ。遊びを超えてボンゴレの仕事し始めちゃったの君だろ?」

レオさんは霧に包まれていく。そして霧が晴れる頃には、私のよく知るオッドアイが姿を現した。

「ボンゴレ…?彼らと一緒に扱われるのは心外ですね。沢田綱吉は僕の標的でしかありませんよ。」

『骸…君…っ?』

「ずいぶん幼くなりましたね、花莉。」

孤独を感じていた私にこの再会は涙が出るほど嬉しいものだった。背や髪もずっと伸びて、大人びた彼は10年後の骸君なのだろう。

「へぇ、君が骸君かぁ。うん悪くないね。そのレオ君…いやグイドグレコ・は君にとって2人目のクローム髑髏という解釈でいいのかな?」

「クフフフ、どうでしょう?」

「ふうん。企業秘密か。まぁ答えたくないもん無理矢理言わせてもねぇ。…わっ、レア度星5つのヘルリング!2つも持ってるんだ。骸君闘る気マンマンじゃん。」

「当然ですよ。僕は楽しみにしていましたからね。ベールに包まれたあなたの力を暴けるこの日を。そして…あなたを乗っ取るこの時を。」

「食後の運動ぐらいにはなるかな。花莉ちゃん下がっててね。」

私は大人しく下がり、彼らを見ていた。嫌な予感がする。どうか骸君、負けないで−−−。

しかしそんな願いすら神様は聞き入れてはくれなかった。