死神へ口付け

ものの数分だ。膝をついたのは骸君だった。白蘭さんはまるで骸君の動きが全て分かっているようで、恐ろしかった。

『骸君…っ!!』

「なんて恐ろしい能力でしょう。さすがミルフィオーレの総大将…というべきですかね。敵いませんよ。」

「また心にもないこと言っちゃって。くえないなぁ骸君。君のこの戦いでの最優先の目的は勝つことじゃない。謎に包まれた僕の戦闘データを外部の他の体に持ち帰れればそれでよしってとこだろ?あとは花莉ちゃんの無事を確認ってところかな。」

「ほぅ…面白い見解ですね。しかし…だとしたら?」

「叶わないよ。ソレ。この部屋には特殊な結界が張り巡らされてて光や電気なんかの波はおろか、思念のたぐいも通さないって言ったら信じてくれる?」

「クフフフ、何を言っているやら。僕にはさっぱり理解できませんねぇ。…楽しかったですよ。…!??」

「実体化を解いてここからズラかろうとしたってダメだからね骸君。この部屋は全てが遮断されてるって言ってんじゃん。」

「!」

「ボンゴレリングを持たない君には興味ないのね。いっそ本当の死を迎えちゃおうか。」

そう言ってリングに炎を灯そうとする白蘭さんの腕にしがみつく。ダメだ、このままじゃ骸君が死んじゃう。そんなの絶対に嫌!!

『やめて…っ、ください…!』

「おっと、花莉ちゃん熱烈だね。」

『これ以上、骸君を傷つけないでください…!』

精一杯の懇願だった。彼はすでにボロボロだ。早く治療しなければ、元の体の彼も死んでしまう。

「どーして僕の言うことを聞いてくれない花莉ちゃんの言うことを聞かないといけないの?」

『!?』

「僕は君の心ごと欲しいんだよ。」

『わ、私…っ、』

「花莉!聞いてはなりません。貴方が白蘭のものになっても、ボンゴレリングを手に入れるまで殺戮は終わらない…!」

「だって。僕はなんでもいいんだよ。花莉ちゃんが決めればいい。早くしないと骸君は死んじゃうけどね。」

目の前で大切な人が殺されそうになっているのに迷ってる暇なんてない。私の身一つで彼が助かるのなら喜んで差し出そう。

『白蘭さんのものになりますから…っ、だから骸君を殺さないでください…!』

「花莉!!」

「口ではなんとでも言えるでしょ?そうだなぁ、キスくらいはしてもらおうかな。」

『っ、』

「嫌ならいいよ。また君のせいで人が死ぬだけだもん。」

「何をっ、聞くな花莉!」

「ふふ、骸君は本当に花莉ちゃんが大切なんだね。ずっと捕まった花莉ちゃんを探してたんでしょ?残念だったね、花莉ちゃんもずーっと、思念すら届かない僕しか知らない場所で泣いてたよ。」

「っ、」

骸君、ずっと私を探しててくれたんだ。心の何処かで、どうして誰も助けに来てくれないのって思ってた。でも、探しててくれたんだね。私は白蘭さんの胸元を掴み、背伸びをして唇を重ねた。こんなのキスのうちに入らない。そう自分に言い聞かせて。

「花莉ちゃんにしては上出来。でも僕言ったよね?早く覚悟を決めないと知らないよって。」

『え………………?』

「好きな女の子が別の男にキスをする瞬間が最後なんて、可哀想な骸君♪…バイバイ。」

ぐしゃり、と目の前で血飛沫が舞う。頬についた液体を触って、見たら赤色だった。さっきまで確かに私を見ていてくれていたオッドアイはもうない。さらさらと砂のように崩れ、骸君ではない男の亡骸がそこにあった。足に力など入るわけがない。へたりと座り込み、頭を抱えた。

『ひっ、あ、ああ、嫌ああああ!!!』

どうして、どうしてどうしてどうして!!また私のせいで命が失われた。助けたかった、救いたかった。どうして私は奪うばかりで何も守れないの。

「大丈夫だよ、花莉ちゃん。僕がずっとそばにいてあげる。」

彼はそう言って、血で汚れた私の体をそっと抱きしめた。救われないのは一体誰なのだろうか。