試練を超えて

誰かに呼ばれている気がした。それは幼い少女の声。オレンジ色の温かい炎が私を光へと導いてくれる。この優しい炎を私は知っている−−−。

『ん…、』

「花莉様、」

『!!…貴女は…っ!』

目を覚ますと、私のベッドのそばに少女が立っていた。勢いよく起き上がり、少女の目を見た。

「はじめまして、花莉様。ユニと申します。」

『あっ、え、はじめまして…!』

「はじめましてというのもおかしいですね。私と貴女は一度会いましたから。」

大人っぽいけれど、どこかあどけなさが残る微笑みはとても可愛らしかった。初めて会った時はもっと冷たい瞳をしていて人形のようだったのに。

『あ、あの時のユニちゃんは、』

「そう、白蘭の手によって操られていたのです。そして、貴女も彼によって心を壊されて眠っていました。」

『!!』

「白蘭は花莉様に執着しています。それは狂気の含んだ愛情。白蘭は貴女の心を壊して、自分の意のままにするつもりでした。」

『そんな、』

「普通なら花莉様は自ら目を覚ますことはなかったのです。指輪争奪戦の時のように。」

『!!』

そうだ、あの時も精神的に追い込まれてて厄介な夢に囚われてしまっていた。またこんなことがあるなんて。私はいつまでたっても成長しない。

「それは違います。」

『!!』

「貴女は試練を乗り越えて目覚めました。歴代で最も辛い試練を乗り越えたのです。」

『試練…?』

「はい。星空の娘が覚醒するのは強い意志が必要です。逆に言えば、強い意志があればすぐに覚醒できます。しかし、その覚醒は本来三段階あるんです。」

『え…!?』

「半覚醒、覚醒、そして最後は真覚醒。真覚醒は今まで初代星空の娘のみ。何故なら真覚醒をするには条件があるからです。」

『条件…?』

「大空のアルコバレーノの意思で、その試練を受けることができます。」

『じゃあ2代目からその試練を受けていないってこと…?』

「そうです。初代は2代目に真覚醒の事実を教えなかった。2代目はある日を境に殺戮を好むようになり、他者を平気で踏みにじるようになってしまったからです。花莉様も記憶を見たかと思います。」

そう、2人目の彼女は人を殺すことを楽しんでいた人だった。今でもそのリアルな感覚を思い出してしまって気分が悪くなる。

「初代は2代目を危険視し、さらなる力を使うことのできる真覚醒を伝えることはなかった。よって、今までの星空の娘は覚醒状態のままだったんです。」

『じゃあ私が試練を受けたのはユニちゃんの意思だったってこと?』

「いいえ、本来は同意に基づいて行うもの。しかし私は魂を他へ避難させていたため、私の意思なくその力が働いてしまいました。本当に申し訳ありません。」

『あ、謝らないで…!』

「いえ、私は貴女の心を壊してしまうところでした。パラレルワールドで意思のない私と接触した貴女は全員試練に耐えきれず心がすぐに壊れてしまった。貴女の心が壊れなかったのは、貴女のご両親が残したそのペアリングと貴女の切なる願いのおかげなんです。」

『えっ、ペアリング!?』

「はい、そのペアリングにはご両親の力が込められています。その力が働き、貴女の心を守ってくださいました。」

私は首にかけてあるペアリングをギュッと握りしめた。この世に居ずとも守ってくれる両親に心の底から感謝した。

「そして、貴女は過酷な試練を乗り越え、覚醒しました。もし私と貴女が接触していなければ、心を壊されたまま眠りについたのです。」

『あ、あの時偶然ユニちゃんの部屋に入ってよかった…!』

「いいえ、偶然ではありません。全ては必然だったのです。貴女は導かれてきた。それは優しく、慈悲深い花莉様が真覚醒をするに値すると初代様に認められたからです。」

『…!』

「花莉様は何もできないとご自分を卑下しますが、そんなことはありません。貴女の心は誰かの力になる。貴女の優しさで救われる人がいます。どうかそれを忘れないでください。」

ユニちゃんの言葉に、涙がこみ上げた。何もできない自分が嫌だった。誰も守れなくて、傷つけて。悔しくてたまらなかった。何が星空の娘だと思うこともあった。でも、そんな私を認めてくれる人がいるのなら、私は自分のできることを精一杯やりたい。この力を誰かの為に使いたいよ。

「現時点で試練を乗り越えた花莉様は真覚醒する資格を得ました。あとは花莉様の意思次第です。」

『私の…意思…、』

「今ステラリングをお持ちですか?」

『うん、ポケットにあるよ。』

私はスカートのポケットからステラリングを取り出してユニちゃんに渡した。すると彼女はそっとステラリングを受け取り、私の指にはめる。すると、ステラリングは炎を灯した。

『!!』

「これで完全に覚醒しました。真覚醒には劣りますが、力を使うことが出来ます。」

『この、炎の色…、』

「ええ、これは貴女だけの色。星空の炎です。」

私だけの星空の炎。それはあの忌々しい瞳と同じ色の炎だった。私の大嫌いな色だったはずなのに、どうして今はこんなにも安心しているんだろう。

『そういえば、白蘭さんは…!』

「白蘭は今、ボンゴレリングを奪う為に沢田綱吉さん達と戦っています。花莉様、共に来てくれますか…?」

『うん…!!』

私はユニちゃんと共に、綱吉君達が戦っている場所へと向かった。どうか皆無事でいて−−−。