隣にいたいのは

ユニちゃんと訪れたのは超高層ビル街だった。見渡す限り高層ビルが建っていて、目が回りそうな気がした。

『ここに皆が……?』

「はい、もう戦いは終わっています。」

彼女は全てを知っているようだった。まるでこの戦いもどちらが勝ったか知っているようで、私はそれ以上何も言えなかった。

少し歩くと、話し声が聞こえてきた。先を見ると、懐かしい面々が揃っている。それだけで泣きそうになった。

「でも、約束は約束だ!あなたはチョイスには誠実だったはずだ…。」

「だからそんな話なかったって。ない話は受けられないよ。ミルフィオーレのボスとして正式にお断り♪」

「くっ、」

「私は反対です。」

「!」

「白蘭。ミルフィオーレのブラックスペルのボスである私にも決定権の半分はあるはずです。」

「ユニ…貴様…!」

白蘭さんはユニちゃんを睨んでいたが、その顔は確かに動揺していた。そして、私に視線を移すと、その瞳をさらに見開いた。

「ユニが…自ら口をきいた…。」

「えーーー!?あの娘がミルフィオーレのもう一人のボスーー!?それに花莉先輩!?」

「あいつ!無事だったのか!」

『みんな…っ、』

「やはりお前のことだったんだな。でかくなったなユニ。」

「はい、リボーンおじさま。」

ユニちゃんはリボーン君のことをおじさまと呼んだ。どうやらユニちゃんの祖母にあたる人と知り合いのようだ。

「はじめまして、ボンゴレの皆さん。」

にこりと笑う彼女に委員長以外の守護者が顔を赤らめた。とても可憐な笑顔で、赤くなるのもわかる。

「ハハハッ、これは一本とられたよ。いやあびっくりしたなー。すっかり顔色もよくなっちゃって、元気を取り戻したみたいだねユニちゃん♪それに、花莉ちゃんも。」

『っ、』

「病気でもしていたのか?」

「違うよ…白蘭サンの…手によって…ユニは魂を…花莉さんは心を壊されていたんだ……。」

ユニちゃんは白蘭に劇薬を投与され操り人形にされていたという。しかしユニちゃんの魂は遠くへ避難していたため、こうしてここに立っている。ユニちゃんも白蘭さんと同じように他の世界を跳べるようだ。

ユニちゃんはボスとして再戦に賛成した。しかし白蘭さんはそれすら聞き届けてはくれなかった。するとユニちゃんはミルフィオーレファミリーの脱会を宣言し、綱吉君のそばに行って、あるお願いをした。それは自分を守ってほしいということ。綱吉君はひどく驚き、戸惑っていた。

「私だけじゃありません。この…仲間のおしゃぶりと共に。」

ユニちゃんはおしゃぶりを大事に出した。そして、それはユニちゃんの力によって強く光り始める。その眩しさに目が眩みそうになる。

「花莉様、貴女のリングと心も必要なのです。この上に手を添えていただけますか?」

『うん…。』

私はステラリングをはめた手をそっとおしゃぶりの上に乗せる。すると、ステラリングは炎を灯し、おしゃぶりの光がさらに増した。

「おしゃぶりは魂、そして花莉様のリングと心なくしては、存在意義を示さないのです。」

「花莉先輩の額にまたあの紋章が!それにあのリングの色は何!?」

「花莉、覚醒したのか。」

「どういうことだよリボーン!」

「星空の娘は、覚醒後そのステラリングに炎を灯すことができる。それは大空の7属性とは異なる、星空の娘だけの色。星空の炎だ。」

「…あんなに!あんなに輝くものなのか!?」

温かくて、穏やかな気持ちになる。おしゃぶり達は、この時をずっと待っていたようだった。ユニちゃんの元に戻れたことを嬉しく思っているような、そんな気持ちがおしゃぶりから伝わってきた。

「そういうわけか!すごいよユニちゃん花莉ちゃん!やればできるじゃない!やはり僕には君達が必要だ。さあ仲直りしようユニちゃん。」

『…、』

私はユニちゃんを守るように前へ出た。彼はまるで、おもちゃの存在価値を知ったような子供の目だ。

「こないで!もうあなたには私達の魂を預けるわけにはいきません。」

「なーに勝手なこと言ってんの?それ持って逃げるんなら世界の果てまで追いかけて奪うだけだよ。花莉ちゃんもおいで。ほら!」

私達に向かって伸びてくる手に、恐怖を抱いた。怖い、でも私がユニちゃんを守るんだ。ぎゅっと目を瞑ると、けたたましい銃声が鳴り響く。リボーン君が守ってくれたようだ。その様子を見て、白蘭さん側の人達が攻撃したが、それを守ってくれたのはスクアーロさんと委員長だった。改めて、彼の後ろ姿を見たらまた涙がこみ上げてきそうで、グッと堪えた。

「まぁ落ち着こうよ桔梗ちゃん。ユニちゃんは病気でずっと眠っていたも同然だったんだ。急に目覚めて気が動転してるんだよ。」

なんとも白々しい言い方だ。ユニちゃんを操っていたのは白蘭さんなのに。彼はユニちゃんと私が戻れば、ボンゴレリングをボンゴレファミリーに返すと提案した。しかしユニちゃんは白蘭のその言動の魂胆をわかっているため、拒否をした。そして、73の一角を担うユニちゃんはチョイスを無効とし、ボンゴレリングを渡さなくてもいいと宣言をする。しかし、白蘭さんは食い下がらない。ユニちゃんのファミリーを人質として脅すが、ユニちゃんも全てを覚悟していた。ファミリーを失っても、73を守ろうとする強い覚悟だ。そんなユニちゃんを綱吉君は守ると決心する。

「そう、じゃあ花莉ちゃんはちゃんと自分の意思で戻ってきてもらおうかな。」

『!!…わ、私は…、』

「君は聞き分けのいい子だもんね?それとも、また誰かを失いたいのかな?」

『…!!』

「花莉様!聞いてはなりません!貴女のせいじゃありません…!」

「わかるでしょ?誰の隣にいるべきかなんて。大丈夫、今戻ってくるならちゃあんとイイコイイコしてあげるから。」

『−−−っ、』

私に手を差し伸べて笑う白蘭さん。怖い、怖くてたまらない。あの時の恐怖が体に染み付いている。体が震えて止まらないんだ。もしまた捕まったら、今度こそ−−−っ、

「ねぇ。」

『ふぎゃっ!!?』

「「「!!?」」」

脳天に気を失いそうになるくらいの衝撃を受けた。なんだ、一体何が起こったんだ。頭がくらくらして、倒れそうになったが片足を強く踏み込んで止まる。バッと横を見ると委員長がトンファーを持って立っていた。どうやらあのトンファーで私を殴ったようだ。痛い、痛すぎる。

「んなーー!?ヒバリさん何してんの!?なんで花莉先輩のこと殴ってんの!?」

「ほんと気に食わない。勝手に行方不明になって、他の男に触らせて。どれだけ僕を苛つかせれば気がすむわけ。」

『だからって殴らなくても…っ、』

「何迷ってるの。君に選択肢なんてない。腕章それを付けた日から、誰の隣にいるべきかなんて決まってる。」

『!!』

「星影花莉。君は誰のものなの。」

天上天下唯我独尊、委員長様はこんなところまできても健在している。横暴で我儘。でもいつもの委員長に安心している自分がいる。わかってるよ。私はあの日から逃げられない。貴方から逃げられるわけないんだもの。腕章を付けた日から、私は−−−、

『私はっ!委員長のものです…っ!!』

「フ…、上出来。」

溢れた涙を貴方に掬ってもらうのはこれで何度目だろうか。