それは最後の夜だった
桔梗さん達との戦闘を一時的に退けたことができた私達は森の中へとやってきていた。すでに日が暮れ、星空が私達を見守っていてくれている。
「きょっ!!極限にへっちゃらだ!!痛くなどあるものか!!」
「もー、お兄ちゃんムリして…、」
『笹川君、少しジッとしててね。』
私は笹川君の体に触れて、目を瞑る。手に力を集中させると触れた場所の傷が治っていった。これは9代目を治した時と同じ力だ。覚醒をして自由に使うことができるようになった。
「お兄ちゃんの傷が治った…、」
『これで大丈夫だと思う。』
「すまん星影。礼を言う。」
『ううん、さっきは助けてくれてありがとう。』
私は笹川君の元を離れ、野猿君の元へ向かう。私が近づくと、彼は一歩後ずさってしまった。
『あ…、治してもいい…?』
「い、いい!!別に大したことねぇ!」
『でも、』
「野猿、治療してもらえ。すまないお嬢さん、こいつは思春期なんだ。」
「アニキ!!」
『すぐ終わるからね。ごめんね。』
野猿君の元でしゃがみこみ、笹川君と同様、彼の腕に触れて怪我を治していく。彼は腕が治ると、手を動かして喜んだ。しかしすぐに照れたようにそっぽを向いてしまう。なんだか可愛い人だなあと思い、私は立ち上がった。すると急に頭がくらりと揺れ、バランスを崩して倒れそうになってしまった。
「おっと、」
『っ、すみません!』
「大丈夫か花莉!」
『大丈夫だよ隼人君、ちょっと目眩がしただけだから。』
倒れそうになったところをγさんに支えてもらってしまった。体が思った以上に疲れている。でもそんなことは言ってられない。とにかく皆の傷を治さなきゃ。
「花莉、てめぇはちょっと休め。さっきの戦闘で力を使いすぎたんだろ。」
『大丈夫大丈夫。私にはこれくらいしか出来ないから。』
「花莉様、顔色が悪いです。獄寺殿の言う通りお休みください。」
『でも、入江さんやラルさんも…、』
「僕は大丈夫だよ花莉さん。気を遣ってくれてありがとう。」
「俺も問題ない。気にするな。」
情けない。私よりもはるかに酷い怪我をしている人達に気遣われてしまうなんて。私はごめんなさいと一言謝り、γさんから離れ隼人君の側に座った。
「しかしなんてガキの多さだ。どこを見てもガキガキガキ!こんな奴らにミルフィオーレが振り回されるとはな。それにまたあんたに会えるとは嬉しいねぇ。元メローネ基地の裏切り隊長さんよぉ。」
「!!君達だってミルフィオーレを裏切ってるじゃないか!僕だって君達のような野蛮人とまた一緒になるとは思ってもみなかったよ!」
「んだとてめー!アニキにケンカ売ってんのか!?」
「ぼ…暴力を…ふるうのかい…?」
少しピリピリした空気になってしまった。隼人君はずっとγさんのことを睨んでいるし、きっと何かあったんだろうな。一発触発の雰囲気を仲裁してくれたのはユニちゃんだった。野猿君は誤魔化すようにイーピンちゃんを巻き込んで笑顔を作る。ユニちゃんは水をラルさんに渡す。
「しかし似ているな…、お前の祖母…ルーチェに…。」
「だろ?」
「リボーンおじさまにも言われました。」
「ラルもユニのおばあちゃんと知り合いなんだ…。」
「ユニ…お前はアルコバレーノの誕生のことは知っているのか?」
「…はい…、記憶の断片に存在しています。」
2人の話を聞いていると、ユニちゃんは先を見通す力があるらしい。しかしその力は近頃弱まっているという。そしてそれは白蘭サンも同じ。ユニちゃんはその原因が力の枯渇と衰えだと言った。
「白蘭が私と花莉様をここまで必死に欲する理由もそこにあります。一刻も早く73の真の力を引き出し自分の物にしたい。だからこそ白蘭はとても焦っているんです。」
『…、』
「今の白蘭は何をするかわかりません。私と花莉様を手に入れるために全てをかけてくるでしょう。」
「待って、ユニは73の一角を担うって言ってたけど、花莉先輩は73どう関係してるの?」
「花莉様は73における全ての力を扱うことが出来ます。星空の娘としての力と、73の力を合わせればその力は強大になります。」
「えーーー!!?花莉先輩73の力を扱えんの!?」
「はい、ですが白蘭が花莉様を手に入れたいのはそれだけが理由ではありません。」
ユニちゃんの言葉に心臓がはねたような気がした。白蘭さんが私に対して抱く感情。それはあまりにも歪で屈折したものだ。
「え、それってどういう…、」
「察しろダメツナ。」
「はぁ!?察しろって何だよ!」
「それと…皆さんにお伝えしなくてはいけないことがあります。私はもう逃げません。」
『ユニちゃん…?』
「ダ…ダメだよ諦めちゃ!せっかくここまで無事できたのに!」
「諦めたわけではありません。それだけは昔からずっとわかっていたんです。ここが白蘭との最後の戦いになることが…。明日…夜明けとともに始まる戦いで全てが終わります。」
明日に全ての決着がつくんだ。嬉しいような少し恐ろしいような、何とも複雑な気持ちだった。ユニちゃんは明日の戦いが始まるところまで未来を視たようだ。勝敗はわからないが、勝てば恐ろしい未来が待つことのない平和な過去へと帰ることができるらしい。その事実を聞いたら何だかホッとしてしまう。早く過去へ帰りたい。あの日々を取り戻すために戦うんだ。
こうして、私達は明日のために作戦会議を行った。綱吉君は焦っていたけれど、ここにいる全員の気持ちが一つになっているのがわかる。白蘭さんは強い、けれどきっと彼等は勝つような、そんな気がした。
「花莉。」
私はリボーン君に呼ばれ、皆がいる場所と少し離れた場所で2人きりになった。
「明日の戦いだが、ツナと白蘭の戦いには一切手を出さないでくれるか。」
『!どうして…?』
「あいつはまだまだ成長期だからな。白蘭との戦いでもっと強くなるはずだ。お前の力を頼ってばかりじゃ困るんだ。」
リボーン君はあくまで綱吉君の家庭教師というわけか。こんな時までいつものスタンスとは驚きだが、リボーン君がそう言うのなら私は手を出さない。そもそも私も手を出せるような力を使いこなせないのだから。
『リボーン君は綱吉君が白蘭さんを倒すって信じてるんだね。』
「あたりめーだろ。あいつは俺の生徒だからな。勝てなきゃ困る。」
『はは…リボーン君らしいね。わかった、綱吉君と白蘭さんの戦いには絶対手は出さない、約束する。そのかわり、少しだけ綱吉君にプレゼントしてもいい?綱吉君自身のパワーアップとかそういうのじゃないから。』
「ああ、大丈夫だ。ありがとな花莉。」
ニッと笑うリボーン君に私も少しだけ笑い返した。綱吉君とリボーン君の2人には無限の可能性を感じる。恐れることはない、そう言ってくれているような気がして勇気が出るんだ。絶対的な信頼関係で結ばれている2人を少しだけ羨ましいと思ってしまったのはこの夜だけの秘密にしておこう。