いない君を呼んだ

『ふ…ぅ、うぅ…っ、』

震える体を抱きしめるように部屋の隅で縮こまって泣いていた。どうしようもなく押し寄せる孤独感。指輪争奪戦でヴァリアー側にいた時とはわけが違う。この時代は私の生きていた時代ではない。10年で私の周りの世界は大きく変わっていた。この時代の戦い方は匣兵器というものを使って戦うのが主流だという。そして、その匣を開けるのにはマフィアに伝わる特別なリングが必要なようだ。そしてそのリングに炎を灯し、開匣して戦うようだ。まるでびっくり箱だ。

『…炎…、』

匣を開けるには炎が無ければならないという。それは覚悟を炎にするイメージだと彼は言っていた。炎と言ったら綱吉君のイメージが強い。彼が額に灯す炎は優しくて温かさを感じた。私の持つステラリングも炎が灯るのだろうか。そしたら何色になるのかな。

白蘭さんは欲しいものがあると言った。確か、73<トゥリニセッテ>と言っていただろうか。何でも、それを集めれば究極権力を手に入れることができるとか。くだらないと思った。そんなものを集めて権力を握って何になると言うのだろうか。そしてそんなもののために平気で人を殺すことができることが何より理解できなかった。

私はこれからどうなるのかわからない。ボンゴレリングもこの時代にはないと言っていた。ならば彼の元に73は集まらない。彼の願望が叶うことはないのに。

「あれ?着替えてないの?」

突然部屋に入ってきたのは白蘭さんだった。部屋の隅で縮こまる私のそばにやってくる。私は彼を見上げることすらしない。自分が今できる小さな抵抗だった。

「隊服のサイズ合わなかった?」

『………、』

「うーん、制服でもいいんだけどさあ、」

『やっ、離してください!!…っ!』

彼に抱き上げられてベッドの上に放り投げられた。彼は私の上に覆いかぶさり、楽しそうな顔をして笑っている。全身の血が引くようにゾッとした。

「制服だとイケナイことしてるみたいでしょ?」

『っ、』

「それに、あんな隅にいたら簡単に追い込まれて捕まっちゃうよ。今みたいにね。」

隅にいなくたってこの男は簡単に私を捕まえることができるくせに、わざとこういうことを言うんだ。本当に嫌な人。

「僕が着替えるの手伝ってあげるよ。」

『!?…嫌…っ、』

私のベストを脱がそうとするその手を掴んで抵抗した。グッと力を入れてるけど、ビクともしない。

「可愛いなぁ。この時代の花莉ちゃんは落ち着いててね、僕が何を言っても響かなくて。まぁそんなところも好きだったんだけど。10年前の君は色んな表情を見せてくれるから飽きないよ。怯えた顔も、泣きそうな顔も、ぜーんぶ僕だけに見せてね。」

『ひゃ、』

耳に生暖かいものが這う。くちゅり、と音を立ててゆっくりと耳を撫で上げられた。ぞわぞわと鳥肌が立つような感覚だ。

『耳、やだ……っ、』

「弱いんだね。」

『ひぅ、助けて、誰か……っ、』

「誰も助けに来ないよ。ここは君専用のプライベートルームだからね。僕しか入れないし、この部屋の存在を誰も知らないんだ。」

やっと耳から舌が離された。これが日常的に続くのであれば地獄だ。この人に翻弄されて精神がすり減っていくだろう。

『じ、自分で着替えますから…!』

「そう?ざーんねん。」

彼は私の額に唇を落として、私の上から退いた。私はわざとらしく額を手で拭いて起き上がる。

「きっと似合うと思うよ白い隊服。」

『そう…ですか……。』

「ふふ、じゃあ、また後でね。」

白蘭さんが部屋を出て行ったのを見届け、私は再びベッドへと寝転がった。今更になって手が震えてきてしまう。じわじわと視界が歪んで、目尻から涙が落ちていった。

無性に委員長に会いたくなってしまった。この時代の私は、もう委員長と無関係になってしまったのだろうか。私はもう委員長のものではないのだろうか。そう思ったら胸が苦しくなった。

『委員長…っ、』

何度呼んだって、彼に届くことはないのに。私は何度も彼を呼んだ。