虹の贈り物
この世界の脅威は綱吉君の手によって跡形もなく消え去った。多くの傷痕を残して。
「白蘭様!!」
「か…勝ったぜ!!」
「うおお!」
「沢田殿!!」
誰もがその勝利を喜んだ。だけど、入江さんは複雑な表情をしている。彼は白蘭さんの友人だと言っていたから、喜ばしいことばかりではないのだろう。私は地面に寂しく落ちた大空のマーレリングを震える手で拾い上げた。すると、何かが頭に流れ込んでくる。これは白蘭さんの記憶なのだろうか。
「花莉ちゃん、大好きだよ。」
『…!!』
ずるい、こんなの。どうしてそんなに優しく私の名を呼ぶの。白蘭さん、貴方はどこで道を間違えてしまったの。
花莉はマーレリングを強く握りしめ、声を殺して涙を流した。
『…っ、ふ…っ、ぅっ…、』
「花莉。」
『い、いん、ちょ…っ、』
「君は放っておいたらずっと泣いてるね。」
『すみません…、』
「別にいいよ。悪いことじゃない。」
委員長は私の肩に学ランを掛けてくれた。その優しさにさらに涙が出そうになったが、グッとこらえた。
「ぐはっ!!」
『!!』
この場でたった1人残された桔梗さんは、ヴァリアーに今にも殺されそうになっている。桔梗さんは入江さんによると元々一般人だったらしい。パラレルワールドでは各分野で天下をとったが、この世界では不運により叶わなかった。白蘭さんは彼等のそんな憤りを力に変えてくれたと桔梗さんは言った。彼等にそんな事情があったなんて知らなかった。
「黙れ。」
桔梗さんのこめかみに銃口があてがわれる。この時代のXANXUSさんだ。
『XANXUSさん!!!』
「…。」
私の声に彼はぴたりと止まる。そして大人びたその表情で私を見た。正直臆しそうになったけれど、もう戦いは終わったのだ。桔梗さんももう戦う力なんて残ってない。
『やめて…ください…。』
「………ふん。」
彼は桔梗さんを撃つことなく、何処かへ行ってしまった。10年経ってもあの射殺されそうな視線は変わらない。
「うう…、この戦いでたくさんの人が傷ついて…山本のお父さんも他のパラレルワールドでも…多くの人が死んじゃって…勝ったは勝ったけど…もうこんなメチャクチャで…本当に…勝った意味なんてあったのかな…?」
「ツナ…。」
綱吉君の言う通りだ。この戦いでは多くの人が犠牲になり過ぎた。ユニちゃんやγさんも失ってしまった。どれだけ願っても、もう戻らないのだ。
「大ありに決まってんだろコラ!!」
聞き覚えのある声に、ハッとする。ユニちゃんが命を注いだおしゃぶりが光を放ち、その光の中から声がした。
「よくやったな沢田!!コラ!!」
「この声!!」
眩い光の中から現れたのは5人の赤ちゃんだった。ついにアルコバレーノが復活を遂げた。彼等はユニちゃんによって事情を全て知っているようだ。そして、白蘭さんが倒された場合、どのような影響が起きるかも教えてもらったようだった。
「白蘭が倒された今、持ち主を失ったマーレリングの力も無効化されました。それにより白蘭がマーレリングによって引き起こした出来事は全て…全パラレルワールドのあらゆる過去に遡り抹消されるのです。」
「つまり白蘭のやった悪事は昔のこともきれいさっぱり跡形もなく、なくなるんだぜコラ!!」
「え!?そ…それって…ミルフィオーレ に殺された人達や山本のお父さんも!?」
「恐らく死んだこと自体が無かったことになるだろうな。」
『!!』
そんなことがありえるのか。いや、そんなことどうだっていい。多くの人の命が戻るならなんだっていいんだ。
もう白蘭のような者が現れないよう、過去のマーレリングを封印する奥義をユニちゃんはアルコバレーノに託したようだ。もうこれで、この先の未来に不安を持つことのない平和な過去へと戻れるのだ。
『よ、良かった…。』
「花莉、ユニを守ろうとしてくれてありがとうなコラ!!」
『そんな…、結局私は何も出来なかったよ…。』
「そんなことはありません。ユニは貴女の存在を心の支えとしていた。まるで、姉のような存在として。」
『…っ!!わたし…っ、お姉ちゃんに…っ、なれたのかなぁ…っ、』
「ああ、お前は立派だったぞ。良くやったな、花莉。」
『り、ぼーんくん…、ふっ、うぅ…っ、』
もう限界だった。涙腺が緩んでとめどなく涙が溢れて子どものように泣いた。ユニちゃん、ユニちゃん。私は本当に貴女の姉のような存在になれただろうか。
「さあ!今度は君達の願いを叶える番だよ!」
「あっ、…そ…そっか!!」
「沢田!!」
「10代目!!」
「ツナ君!」
「ツナさん!」
『綱吉君。』
彼は私達に応えるように頷いた。
「過去へ帰ろう!!」
ようやく長い長い旅路を、私たちは終えることができるのだった。