君には10年早いんだ

『…。』

「…。」

『…カエル?』

目の前の大きなカエルの鼻をちょんと触ってみた。その触り心地は少し柔らかい。

「おい花莉、そのカエル触ったら爆発すんぜ。」

『えっ!?』

「ベルセンパーイ。花莉ネーサンバカなのでそういうのも信じちゃうんですよー。やめてあげてくださーい。」

『バッ…!?』

「つーか10年前のお前ガキだなー。この時代の花莉のが断然イケる。」

『ベル様は10年経ってもクソガキ感が消えな…10年経つとさらに素敵になりましたね!!』

煽られたので煽り返そうと思ったらナイフを突きつけられた。10年経っても怖すぎる。

「あっ、そういえばこの時の花莉ネーサンってうちのボス引っ叩いた歳ですよねー。」

『!?い、今なんて…、』

「だから、あのうちのおこりんぼのボスを平手打ち−−−、」

『あああああ!!』

「むぐっ、」

とんでもないことを言い始めるカエル君の口を勢い任せに押さえた。私が恐れていたことが今起きている。

『まっ、まさか…、』

「大丈夫よぉ!そのことはヴァリアーの幹部しか知らないわぁ!」

『幹部でも語り継がないでくださいよ!』

「この時代の花莉ネーサンに聞いても詳しく教えてくれないんですよー。でも10年前だったら叩きたてほやほやですよねー。」

『レヴィさん!!新人教育くらいしっかりしてください!!!』

「ぬおっ、何故俺なのだ!!貴様!やはり生意気な小娘め!」

なんだか雰囲気が柔らかくなったなぁヴァリアー。煩いのは変わらないけど、なんとなく丸くなったというか。それとも未来の私との関係が良好なのだろうか。よくわからないが10年前ほど怖くはない。

「花莉。」

『はっ、はい!』

訂正、やっぱり怖いです。ぎゃあぎゃあと騒いでる中、そんなに大きい声ではないのに地に響くような声で名前を呼ばれたのがすぐにわかった。少し離れた場所でXANXUSさんがこちらを見ている。

「早く行け小娘。」

『カエル君ついてきてください…、』

「嫌ですー。あとカエル君じゃなくてフランですからー。」

ヴァリアーの幹部達はXANXUSさんの雰囲気を察したのかこの場からいなくなってしまう。1人残された私は恐る恐る彼の側に歩いていく。10年経った彼は背がさらに伸びていて、なんだか色っぽくなった気がする。前髪をおろすとずいぶん印象が変わるなあ。ジッと見ていると彼は私に腕を伸ばした。思わず一歩後ずさってしまって、すぐに謝った。

『すすすすみません…!あの、XANXUSさんが怖いとかじゃなくて…、ただ…っ、その、』

「カス鮫のほざいてた通りだったか。」

『え…?』

XANXUSさんは手を下から掬い上げるように上げて、私の顎を持つ。10年経っても変わらない獰猛な瞳が私を捉えた。

「だからてめえはヴァリアーで預かるとヤツに言ったんだ。」

『やつ…?』

「おい、過去に戻ったら俺のそばにいろ。いいな。」

『えっ?…むぐっ、』

XANXUSさんに口に手をあてがわれ、グッとその距離が縮まった。リップ音が鳴った直後、彼は私の口に手を当てたまま私を至近距離で見下ろす。

「俺のは10年経ったら外してやる。それまで10年前の俺で我慢しろ。」

『なっ…なっ、』

ぶわわ、と顔に熱が集中する。XANXUSさんの手越しにキスをされた。もちろん唇同士が触れたわけではないけれど、無性に恥ずかしさを覚えた。そんな私を見て彼は満足したのか、ほんの少し口の端を上げて去っていった。

「ミーは師匠とボスどっちを応援すればいいですかね。」

「知るか。花莉お前マジで過去帰ったらヴァリアー来いよ。じゃねーとサボテンにすっからな。」

『ぎゃっ、あれ!?どこかに行ったんじゃないんですか!?』

「見てたわよぉ!花莉ちゃんやるじゃなーい!!」

「許さん、貴様…っ、絶対に許さんぞ!!」

『わあああもうやめてください!!はい!さよなら皆さん!!未来の私に優しくしてくださいね!!』

「ししっ、任せとけよ。いじめ倒してやる。」

「ベルちゃんは素直じゃないわねー!」

「うっせーオカマ。」

結局散々騒いで彼等はこの場を去った。すると少し後にスクアーロさんが現れる。どうやら山本君との話を終えたようだ。仲良くなったんだなあとちょっと嬉しくなってしまう。

「う"お"ぉい!花莉!」

『なんですか?』

「いいかぁ!てめぇは過去に戻ったらヴァリアーに入れぇ!!」

『なっ、なんで皆さんそんなにヴァリアーに入って欲しいんですか!?私暗殺とかしないですからね!!』

「てめぇにんなことできるわけねぇだろぉが!!ヤツに取られるのが癪だって言ったんだぁ!!」

『だからやつって誰ですか!!』

「!!てめぇこの時代で自分がどうなってんのか知らねえのかぁ?」

『知らないから聞いてるんですよ!』

「………。」

スクアーロさんは少し考えるような素振りを見せて、私の方へとズカズカ近づいてきた。その勢いに一歩後ずさると思い切り腕を掴まれ彼に引き寄せられる。XANXUSさんとはまた違う美しい顔立ち、銀色の美しい髪、油断すればずっと魅入ってしまいそうになる。

「過去のてめぇはまだ誰のものでもねーからなぁ。」

『だ、だからなんですか…?』

「過去に帰ったら覚悟しておけぇ。」

にやりと笑って、平然と私の頬に唇を押し当てるスクアーロさん。わざとらしく音を立てるものだからタチが悪い。

『っ、ほんと破廉恥です!!』

「はっ、ガキがぁ。じゃあなぁ!!」

私は去っていくスクアーロさんの背中を見送りながら、彼の柔らかな唇を押し付けられた頬を手で擦った。あれが大人の余裕なのだろうか。まだまだ自分は子どもなのだと思い知らされた瞬間だった。