守りたいのはお互い様だったね
「ちょっとアンタ。何とか言いなさいよ。」
『あ、あの、』
鋭い視線に思わず身を竦めた。目の前の美しいその女性は今にも私を殺しそうな勢いだ。
「あの豚女といいアンタといい邪魔な女ばっかりね。」
『な、なんかすみません?』
「わかってないのに謝ってんじゃないわよ!!」
いまだかつてない経験に戸惑いを隠せない私はお姉さんの言葉にとにかく頷くしかなかった。美人だけど怖すぎる。
「M.M。そのくらいにしてあげなさい。花莉が怖がっていますよ。」
「いいのよ!過去のこいつに釘を刺しておかないとね!!」
「まったく…。花莉、こちらへ来てください。」
「ちっ、」
物凄い形相で睨まれながらも、私は重たい足取りで骸君のそばにいった。M.Mさんはその様子を見てこの場を去る。
「彼女がすみません。昔からああなんです。気にしないでください。」
『う、うん…、』
改めて未来の骸君と話すのはなんだか緊張してしまう。骸君も大きくなったなあと世間話をしたいところだったが、私は骸君に言わなければならないことがあった。
『骸君、ごめん…。』
「何故謝るのですか?」
『あの時、私がもっと早く覚悟を決めていれば良かったのに、私のせいで傷つけた。本当にごめん…っ。』
白蘭さんにとどめを刺された時の骸君の姿が頭にこびりついて離れない。あれは私のせいなんだ。早く覚悟ができなかった私が骸君を殺したの。
「何を言うのかと思ったら…貴女は本当に馬鹿ですねえ。」
『馬鹿っ!?』
「ええ。もうそれは超がつくほどの。」
ため息をつきながら彼は私の頬に両手を伸ばし、そのままつまんで引っ張る。痛い痛いよ骸君。
『いひゃいれふ…、』
「いいですか、守りたい女性に守られて、そのうえ目の前で他の男にキスをする貴女を見せられた僕の気持ちにもなってください。この数億倍痛いんですよ。」
『…、』
「本当は貴女を見つけ出して救いたかった。だがどれだけ探しても見つけることができなかった。まぎれもない僕の失態です。」
ゆっくり頬を引っ張る手は離され、骸君に抱き締められた。10年前の骸君より大きくなっている彼の腕にはすっぽりと私の体が収まる。
「守れなくてすみません。怖い思いをさせてすみません。」
『…っ、』
「花莉、僕を守ってくれようとして、ありがとうございました。」
骸君の言葉に涙が出てきてしまいそうになった。骸君は何も悪くないのに、悪いのは全部私なのに。
『骸君、私は充分守ってもらったよ。骸君がいなきゃ私とユニちゃんは白蘭さんに捕まってた。だから、ありがとう。』
「!!…貴女と言う人は…、これだから貴女には敵わないんです。」
柔らかく笑う骸君は、私の額に唇を落とした。そして瞼、鼻先、頬、にも唇を落とされる。
『ちょっと待って骸君!』
「なんです?」
『な、何してるの!?』
「何ってキスですよ。今は邪魔者がいないですからね。奴に手を出される前に僕が貴女を落としてみせますよ。」
『だから奴って誰!?』
彼の口を両手で押さえて口付けるのを必死にやめさせた。本当に勘弁してくれませんか。骸君は不服そうな表情を見せているが、こればかりは私も譲れない。やっと彼は私から顔を離すが、抱き締める力を弱めてくれることはなかった。
「まぁこればかりは過去の僕に頑張ってもらわなければいけないですからね。」
『骸君…、』
「大丈夫ですよ。必ずあの場所から出てみせます。今だってこうして出てますから。」
『うん…、』
なんだか骸君なら本当に早く出てしまいそうな気がした。きっと不安に思うことはないのだろう。私は信じて彼が帰ってくるのを待つだけだ。
「骸さーん!お腹減ったびょん!!…げ、」
「クフフ…いつになったら犬は空気が読めるようになるんですかねえ。」
「す、すみまへん骸さん!!」
「ほんとばか…。」
どうやら犬君と柿本君が迎えにきたようだ。骸君は私から離れていく。
「どうやら時間のようです。花莉、未来で待ってますよ。」
『うん…!!』
オッドアイが優しく細められ、彼は仲間と共に去っていった。
さぁ、私もそろそろこの時代とお別れだ。