望んだハッピーエンド
『はあ…っ、はあ…っ、』
女は自分の持つ全ての体力を注ぎ込んで森を駆け抜けた。ボンゴレ10代目が一度は眠っていたあの棺桶すら飛び越えて、森の奥へと進んでいく。木の陰に隠れて、上がった息を整える。
『はぁ…、はぁ…。』
25歳の花莉は恐怖を抱いていた。それはこれから自分がどうなるか、何となく想像がついたからだ。その恐ろしさで身震いまでする始末。
『もう皆地上に来たかな…、』
花莉はチラリと後ろを確認する。するとすでに人影がこちらへ向かっているのが確認できた。花莉は誰がこちらに向かっているのかを容易にわかってしまった。だからこそ疲れた足に鞭を打ち、走り出した。しかしそれはもう無駄な足掻きでしかない。彼女の体力、そして足の速さなど彼の足元にも及ばないからだ。走っていた彼女は、簡単に腕を掴まれて近くの木に押し付けられる。
「ここに戻ってきてすぐに逃げるなんていい度胸してるじゃないか。」
『お、お久しぶりです委員長…。ちょっと落ち着きましょ…?話せばわかりますから、ね?』
「話しても分からなかったのは君でしょ?僕は行くなって言ったはずだけど。」
『結果オーライですって!!ね!?』
「黙れ。」
『んぅっ!?』
雲雀の怒りは頂点に達していた。しおらしく謝るならまだしも、戻ってきたら花莉は走って地上へ行ったと入江に聞かされ、見つけたと思ったら自分の姿を見て逃げ出したのだから。彼女の顔をがっちりと掴み、乱暴に唇を落とし、舌をねじ込む。
『ンっ、ゃ…、待っ…んんっ、』
花莉は雲雀の肩を押し返すが弱々しいその力では動くはずがない。雲雀からの口付けに呼吸すらままならなくなってきた。すでに脳がとろとろと溶かされているような感覚に陥り、正常に働かないのだ。
『っ、ぁ、…ンぅ、も…むりっ、』
「はっ…何言ってるの。こんなんじゃ足りない。」
『ダメ…っ、まず、委員長の、怪我が…先…っ、』
雲雀は幻騎士との戦いで体中が傷だらけになっていた。そんなことを気にも溜めず、口付けを続ける雲雀に花莉は憤りを覚え、グンとネクタイを引っ張る。
「なに、」
『怒ってるのはわかりましたから傷を治させてください。』
「そんなこと今はどうでもいい。」
『どうでもよくないです!ばい菌が入って悪化したらどうするんですか!!』
「…、」
『ちょっと触れますよ。』
花莉は雲雀の傷に触れて傷を治していく。星空の娘の力だ。すでにその力を使うことに慣れていた花莉はあっという間に雲雀の傷を癒した。
『はい、これで大丈夫です。』
「はぁ。怒る気が失せた。」
『え、許してくれるんですか?』
「は?許すわけないでしょ?だいたい君反省してないでしょ。」
『し、失礼な。してますよ。ちょっとだけ。』
「本当にいい度胸してる。僕をこれだけ振り回すのなんて世界中探しても君くらいだよ。」
『えへへ、』
「褒めてないから。」
雲雀は花莉の体を抱き寄せる。久しぶりに抱き締めた体はこんなにも小さかっただろうかと彼は思った。
「アイツに何もされてないよね。」
『あ〜〜〜、まぁ、私は…。』
「私はって何。過去の君は何かされたわけ。」
『だっ、大丈夫!未遂です!』
「全然大丈夫じゃないんだけど。今の君だろうが、過去の君だろうが同じでしょ。」
『そう言ってくれるだけで、きっと過去の私も救われてますよ。今の私もね。』
抱き締めて離さない雲雀をまるで大きな子どものようだと花莉はクスリと笑う。彼の背中に手を回し、その優しい温度に浸った。
『白蘭さんが、私を自分のものだって言ったんですよ。だから私言ってやったんです。』
「何を…、」
『私は10年前からずっと、委員長のものだって。』
「!!」
『私の全てはもう貴方に捧げてますから。あの腕章を受け取った日から。』
「まだ持ってるの、あの腕章。」
『当たり前じゃないですか。私の宝物ですもん。』
雲雀は優しく微笑む花莉を見て、ようやく自分の腕の中に帰ってきたのだと実感することができた。彼は花莉が自分の元を去ったあと、自分の腕の中に抱き止めていればよかったと何度も後悔していた。だがもう花莉は自分の腕の中に戻ってきた。この瞬間をどれほど待ちわびていたか。
「次勝手にいなくなったら閉じ込めるからね。」
『ひえ…監禁ですか。』
「当たり前でしょ。次があるだけマシだと思ってほしいよ。」
『肝に銘じます。』
「…あと今日はハンバーグが食べたい。」
『!!…ふふ、喜んで。並盛の旗、刺しておきますね。』
「当然。」
これで今度こそ、物語は終わりを迎えるのだ。彼女達が望んだとびきりのハッピーエンドで。
「花莉。」
『なんですか?』
「おかえり。」
『!!…ふふ、ただいま。恭弥さん。』
2人はお互いを確かめ合うように口付けを交わし、その愛を噛み締めた。