滲んでいく
「うっ、うっ、」
「よくっ、よく帰ってきた!!」
『…、』
未来から帰ってきた次の日、登校すると風紀委員の仲間が私を見るなり号泣し始めて私は困り果てていた。何故泣く。
『草壁君…これは…、』
「お前が行方不明になったと聞いた委員長が荒れに荒れててな…あれは酷かった。」
『ああ…、ごめん皆…。』
草壁君の言葉でなんとなく察した。委員長に八つ当たりでもされたのだろう。ボロボロの彼らを見て申し訳ないと思った。私も行方不明になるつもりはなかったんだ、ごめんね皆。
『じゃあ朝の取り締まりよろしくね。私応接室で書類片付けちゃうから。』
「ああ。頼む。」
「花莉!もう突然いなくなるなよおおお!!」
「頼むぞおおお!!」
男泣きする彼らに苦笑いして私は応接室へと向かった。ノックをしてドアを開けると、すでに委員長が仕事をしている姿が目に入る。
『おはようございます委員長。』
「…………おはよう。」
私は鞄をソファーの横の床に置き、事務業務の準備を始めた。委員長から書類を受け取り、ソファーに腰をかける。こうしているとちゃんと日常に戻ってきたんだなあと改めて思う。
「昨日、大丈夫だったの。」
『ああ、家ですか?そりゃあもうこっぴどく叱られましたね。』
「ふぅん。」
『なんとか誤魔化せましたけど次はもう許してくれない感じでした。』
「次なんてあったら僕だって咬み殺すよ。」
『あれは不可抗力ですって。』
生きてて15年間突然バズーカの弾に当たるなんて想像すらしたことがないというのに。でもこの世界に足を踏み入れた以上、私はきっとそういう覚悟も必要なのだろう。
「そういえば未来で手に入れた杖は持ってるのかい?」
『あ、それはなんか小さくできるので首にかけてます。魔法少女になった気分です。』
「これで君も戦えるようになったんだよね。」
『え、嘘でしょ…。私委員長と戦いませんからね。』
「君に拒否権があるとでも?」
『そういう人でしたよ貴方は!!』
私とも戦う気だったのかこの人。戦闘狂が過ぎる。正直出来ることなんてまだ少ないし、この力については未知数だ。窮地に立たされると本能的にどうにかしなきゃと思うのかわからないが出来ることが増える。これからもそうなのだろうか。そもそも窮地に立たされることがないといいのだが。
『私…これからどうなるんですかね。』
「知らない。興味ない。」
『無情…、』
「いつも通り僕のそばにいればいいよ。何回言わせるの?」
『清々しいほどブレないですね。委員長のそういうところ嫌いじゃないです。』
「素直に好きって言いなよ。」
そういうところが好きかどうかはちょっとわからない。嫌いではないが一番適当な答えだと思う。
『委員長、私が行方不明になって心配しました?』
「……………してない。」
『ふふ、そうですか。』
「ちょっと、なに笑ってるわけ。」
『いーえ?委員長も少しは私の気持ちをわかってくれたのかなって思っただけです。』
心配かどうかはわからないが少し間があったからきっと気にはかけていてくれたのだろう。いつもは私が彼を心配している身だから少し嬉しい。自然と顔が緩み、にやにやしながらパソコンの画面を見ていると、委員長が立ち上がってこちらに来た。やばい、怒らせたか。
「人のことを散々振り回しておいて反省してないみたいだね。」
『してます!!』
「君があれの腕の中にいる時、僕がどんな気持ちだったかわかる?」
『わ、わからないです。』
ジリジリとソファーの端に追いやられ、小さく縮こまりながら、私を見下ろす委員長を見た。その瞳の奥には獣のような鋭い何かが宿っている。
「膓が煮えくり返る思いだったよ。あれを何回咬み殺しても足りないくらい。」
『っ、』
耳元で低く冷たい声で囁かれ、体がぞくりと震えた。吐息が擽ったくて、ぞわぞわする。次の瞬間、耳にぬるりとしたものが這い、思わず身を固くする。
『嫌っ…!!』
反射的に思い切り彼の体を押して拒絶をした。すぐに自分のしてしまったことに血の気が引く。こういうことをされるとどうしても白蘭さんにされたことを思い出して体が震えてしまう。委員長が怖いわけじゃないのに、体が反応してしまう。
「………意地悪しすぎたね。もうしないよ。」
『っ、わた、し…っ、ごめんなさい委員長…っ、』
離れていく委員長に手を伸ばそうとするが、その手が震えていることに気づいた。ダメだ、これでは彼が怖いと言っているようなものじゃないか。私はその場にいられなくなって、応接室を飛び出した。
『…っ、』
世界が滲んで、戻らなくなった。