神宮寺寂雷



※カラフル夢主



ホームルームが終わった直ぐ後、あらかじめ入れておいた教科書や筆箱を入れたリュックを背負った。すると前の席の友人から不思議そうな目で見られた。


「あれ?今日何か用事あるの?」
「うん!寂雷さんの誕生日だから早く帰って準備するの、じゃあまた明日!」
「おーまたねー」


手を振って友人達と別れた後、人とぶつからない様注意しながら廊下を早足で歩いていく。本当は思い切り走って行きたいけど先生に見つかって注意されたらそれこそ時間の無駄たからね!


「……」
「なーにぶすくれてんだよじろー」
「あ?ぶすくれてねぇよ」
「ヤキモチ妬くにしても相手は親みたいな存在の人だろ」
「ハァ?! 別にヤキモチなんて妬いてねぇし!何で名前の事でそんな…」
「誰も苗字さんって言ってないけど?」
「……中谷、てめぇ表出ろや」
「ははは、喧嘩っ早い男はモテないぞー」
「なかやんやっぱすげぇや、二郎の睨みを全く物ともしねぇ!」
「るっせぇ殴るぞ」
「ぶっふぉもう殴ってるよ!!」
「(どんまい小山…)」


△▼△


事前に予約しておいたケーキを冷蔵庫に入れ、「よしっ!」と気合いを注入する為両頬を叩いた。少し強過ぎたのかヒリヒリするが気にせずいこう。寂雷さんが今日は少し遅くなるって言ってたからまだ時間はある。それまでにごちそうを用意してびっくりさせよう、というのが密かに立てた計画だ。この日の為に和食系統のお祝いレシピを沢山調べたから何とか成功させたい…!


「(寂雷さん驚くかなぁ…喜んでくれたら嬉しいな)」


よっしゃ頑張るぞ!と袖をまくったその瞬間だった。今確かに聞こえたぞ、玄関の鍵が開く音が…いやいやそんなだって今日は少し遅くなるって言って「ただいま」あれれーー?!
急いで玄関に向かうとそこには確かに寂雷さんが存在していた。


「おっおかえりなさい!早かったね!」
「ああ、今日は患者さんが少なくてね、先生方からも今日くらい娘さんとゆっくりしてきなさいと言われたんだ」
「そうなんだ〜…」


娘さん…娘さんかぁ。心地いい響きに浸りかけそうになったがすぐに現実に引き戻した。


「その格好…もう夕飯の準備をしているのかい?」
「えっ?あっ!」


焦って出てきたからエプロンつけたままになってるのに気づかなかった。これはもう隠し通せないな…というか寂雷さんが帰ってきた時点でもうアウトだ。


「えっと、実は寂雷さんが帰ってくるまでに沢山ごちそうを作ろうと思って…私も色んなものを作れるようになったからテーブルに沢山並べて驚かせたかったんだけど…」


考えるときはそんな事無かったのに、口にするとすごく恥ずかしい。そのせいで段々声量が小さくなり、頬も熱くなってきた。
呆れられたかな、と恐る恐る寂雷さんの方を見てみるとその表情はとてもレアなものだった。


「寂雷さん?」
「…あ、いや、まさかそんな可愛い事を考えてくれていると思っていなくて…凄く嬉しいよ、ありがとう」


穏やかに微笑む寂雷さんに私はさっきとは違う恥ずかしさで頬だけじゃなく顔全体が熱くなった。


「良ければ一緒に作りたいと思うんだけど、どうかな?」
「えっ! い、いいの…?」
「私じゃ足手まといになってしまうかもしれないけどね」
「寂雷さんそれ本気で言ってる? 寂雷さんの作るご飯すっごく美味しいよ! そこら辺の料亭よりも美味しい!」


寂雷さんの作るご飯は本当に美味しい。めちゃくちゃ美味しい。何でそんなに謙遜するのかわからないくらいだ。「それは言い過ぎじゃないかな…?」と寂雷さんは照れているのか少し頬が赤い気がする。


「それじゃあそんな名前の為に今日は腕によりをかけて作ろうかな」
「私も寂雷さんの為に全身全霊を尽くして作るね」


何だかお互いを鼓舞してるみたいだ。笑い合いながらキッチンへと向かおうとした時、ふと一つの言葉を言いたくなって後に続いていた彼の元へ振り返った。


「朝にも言ったけど…寂雷さん、お誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう、名前」







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