山田二郎
「…お前のことが好きだ。…だから、その、俺と付き合ってくれ」
放課後、体育館裏で人気が全くないこの場所で私は生まれて初めて告白された。
告白された事はとても嬉しい。今すぐ泣き出しそうなほど嬉しい。でも、それは相手が一般的な人だったらの話だ。
何せその告白している人物は学校じゃ結構有名な不良高校生、山田二郎君。全然一般的じゃないね、寧ろスクールカースト底辺あたりの私とは縁もゆかりもない人種だ。
しかし何故私に告白したのか全くわからない。彼とは話したことも無ければ同じクラスになった事もない。…ハッこれはもしかして罰ゲームというやつなのだろうか。きっと友達間で何らかのゲームをしてビリだったやつは一番ブスな奴に告白してこいとかいう「は?そんな事しねぇし。俺の事疑ってんのかよ」あ、すみません声に出てたんですねすみません疑ってないです、はい。だからガンつけないでお願いします。
(とりあえず山田君にはそんな感情持ってないし、断らないと)
気持ちもないまま付き合えるほど私は器用じゃない。というか怖くて付き合うとかそんな場合じゃなくなりそうだ。うん、勇気を持って断るんだ名前。お前はやるときはやる子だぞ名前。それでは、いざ!
「あの、私あなたと付き合えな「あ?」よろしくお願いします」
あんな光の速さで折れるなんてどんだけチキンなんだよ、と涙がちょちょぎれながらも私は今現在山田君と2人で下校している。
いや〜凄いよ〜隣からの圧迫感が。こんなのが続くとなると私いつか押し潰されてしまうんじゃなかろうか。気持ち的な問題で。
「…おい」
「ハイなんでしょう」
「とりあえず敬語やめろよ。その…俺たち、付き合ってるんだし」
「アッはいわかった了解どす」
ん〜動揺して変な日本語で答えちゃったけど…山田君、ちょっと可愛いぞ。顔背けてるけど耳が真っ赤だぞ。照れてるのか?ん?色んな女の子取っ替え引っ替えしてそうなのに「んな事しねぇよ」アッまた声に出してた自分馬鹿野郎この野郎。
「その…あれだ、付き合うの、お前が初めてだから…」
だからギャップ〜仕事し過ぎだっての〜!!え、え、何なの?ギャップ萌えなの?ギャップで殺そうとしてるの?可愛いがすぎるんだけど!何なんだこの萌えの塊は!ていうか初めてが私っていうのめちゃくちゃ申し訳ない気持ちになるんだけど!!
「そうなんだ、なんか意外だね」
「…苗字は誰かと付き合った事あんのかよ」
「ない」
何だろう、答えときながら何だけどコンマ数秒前に答えれた事に悲しみの気持ちが抑えきれないよ。でも無いもんは無いんですよ、仕方ないんですよ。
「…本当に?」
「う、うん、本当」
そこで嘘ついてどないすんねん。自然と関西弁でツッコミを入れてしまったが、ここで嘘ついて何になるんじゃいと心底思う。見栄を張ってはいけないよ、後に自分の首を締める事になるからね。
「そうか…何か、嬉しいな。そーゆーの」
……あああああ苦しい!!首締めてる訳じゃ無いのにすっごく苦しいよ!!!何なの?何なのその優しい笑顔??山田君それ素なの??マジなの???え?尊いんだけど。
告白されて1時間しか経っておらず、しかも印象も良くなかったのに今じゃ山田君の可愛さに振り回されている。頭の中も心も山田君の可愛さでいっぱいになっていて、自分ってこんなに単純な人間だったっけと本気で思う程だ。
恋愛は常に不意打ちの形をとる、という格言を聞いたことがあるが、本当彼から不意打ちばかり食らってノックアウト寸前だ。
とりあえず、もう少し彼のことを知っていきたいから断るのは置いておこう、と思う。
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