碧棺左馬刻
「左馬刻さん、煙草って美味しいの?」
隣で煙草を吹かす左馬刻さんに今まで感じていた疑問を問うと「あ?」とまずメンチを切られた。普通の人なら怯えてしまうが何度も切られているのだからもう慣れっこだ。
「んだよ、興味あんのか?」
「うん。だっていつも吸ってるから」
すると左馬刻さんは無言で煙草を吸ってそのまま私に向かって煙を吐き出した。
「うわっ何するの!」
「大人ぶろうとしてんのか? ガキの名前チャンにはまだはえーよ」
明らかな子供扱いに頬が自然と膨らんだ。それを見た左馬刻さんは更に楽しそうに笑みを浮かべて私の頬を親指で押した。そのおかげでぱんぱんに収まっていた空気がぷひゅうと間抜けな音を立てながら出ていく。
「…私、左馬刻さんと同じ時に産まれたかった」
そうすれば、こんな辛い気持ちにならずに済んだのに。16歳という年齢では彼の好きな煙草も吸えないしお酒も飲めない。そしてこの年の差は一生埋まる事は無いのだ。
「早く大人になりたい」
本音を言って体育座りした膝に顔を埋める。
ああ、面倒だと思われているんだろうな。
でも口にしないと不安で押しつぶされそうだったのだ。もしかしたら、同い年或いは歳上の女性と恋に落ちるかもしれない、いや若しくはもう…。あ、だめだ涙出てきた。
自分の失言に後悔していると左馬刻さんから「おい」と不機嫌そうな声色で呼ばれて恐る恐る顔を上げる。突如片手で頬を掴まれ、一体何かと困惑する私など御構い無しに唇を重ねた。仄かに感じる苦味は多分煙草の味なのだろうか。
そんなに時間が経たない内に唇は離れてしまい少し名残惜しく思ってしまった。
「心配しなくてもお前以外の女なんざ興味ねーよ」
そう言って乱暴に頭を撫でてくる左馬刻さんに私は口元をにやけさせる。
「次キスする時は煙草吸ってないときにしてね」
「あ"? んでだよ」
「苦くて不味いもん」
「我儘な奴だな…さっきは興味津々だったくせによ」
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