MTCと記憶喪失女


港近くの森へ足を踏み入れて1時間。相変わらず辺鄙なところに住んでいる当の本人は火を起こしていて、「待っていたぞ、2人とも」と穏やかな笑みを浮かべていた。しかしいつもの光景の中に1つ、異質な存在が彼の隣に腰かけていた。しかも理鶯の料理を頬いっぱいに詰め込んで。

「おい理鶯、誰だその女」

まず左馬刻がその存在について言及する。

「ああ、彼女はつい先日小官が仕掛けていた罠に掛かっていてな。記憶がないみたいで此方で預かっているんだ」

「記憶喪失、ですか?」

「そうなんですよーあっでも名前は言えますよ!名前っていいますー以後お見知り置きを!」

ご飯を飲み込んだ女はへらりと笑い、また食事にありつく。…なんか形がヘビっぽい肉をむしゃむしゃと食べている。まず普通の女性じゃないことは明らかだ。

「うむ、名前はよく食べるから小官も作り甲斐がある。お前達も食べていってくれ」

「い、いや、私はもう食事を済ませてきたので、今回は遠慮させてもらいます」

「俺も今日は食欲ねーから…わりぃな理鶯」

「そうか、残念だ」と明らかに落ち込んだ様子に良心は痛むがすまない理鶯、ゲテモノは本当に駄目なんだ。

「私達を呼んだのは其方の女性の事でですか?」

「ああ、直接会って紹介した方がいいと思ってな」

彼女…名前さんが言うには「気づいたら港で寝てたんですよね。何でこんなとこで寝てたのかなー、財布もないし、というか今まで何をしてたのかもわかんないなーって。でもここでジッとしてても意味ないしとりあえず歩くかーってなって森の中歩いてたら見事に罠に掛かっちゃって!網で吊り上げられたんですよ!そこで理鶯さんと出会ったんですよ〜、それから色々お世話してくれてもう感謝感激です!」という事らしい。
胡散臭さ満載だが、嘘をついている様にも見えない。

「とりあえず、私は署の方で捜索願が出されてないか確認しておきます」

「すまないな銃兎」

「ありがとうございます!」

「左馬刻も彼女と仲良くしてやってくれ」

「あ? んで俺がそんな胡散臭ぇ女と仲良しこよししねーといけねーんだよぶっ殺すぞ」

「よろしくお願いします左馬刻さん!」

「るっせ気軽に名前呼ぶんじゃねぇ!つかさんじゃなくて様をつけろクソアマ!」

「はい!左馬刻様!」

左馬刻からの暴言も意に介してない様子の名前さんはやはり普通の女性とは違う、と改めて思った。




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多分続きます

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