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観音坂さんから貰った水族館のチケットを眺め、自然と思い出したのは過去の自分だった。
学校からの帰りに郵便受けを開けてみると水族館のチラシが入っていて、イルカやペンギン、色鮮やかな魚の写真が沢山載っていた。それを見て何故か感動し、捨てずにずっと大事に仕舞っていたのだ。いつかお父さんと行きたいと心の中で思いながら、時々見返したりしていた。…その願いは叶う事はなく、家を出る時には捨ててしまったのだけど。
懐かし思い出に浸りながらも帰る支度を済ませ、いつものように裏口のドアを開けた。とりあえず観音坂さんが来たらちゃんと話を聞かないと…、


「あっあの…」
「ひゃあっ?!!」


こんな場所で話しかけられると思っていなかった私は驚きの余り声を上げ振り返ると顔を青ざめた観音坂さんが立っていて、「ひぇっ!ああっすっすみません!驚かせてしまってすみません!!」と謝罪の言葉を早口で並べた。


「此方こそ大きな声を出してしまってすみません…」
「九条さんは悪くないです!突然話しかけた俺が悪いんです。俺暗いし、空気みたいな存在だし…それで上司からも注意受けてて…“営業がそんな暗くてどうすんだ、もっと明るく存在感出していけ”って言われて…存在感ってどうやって出せばいいのか…」
「ス、ストップです観音坂さん!一旦落ち着きましょう!」


段々ネガティブモードに入っていく観音坂さんにとりあえず待ったをかけた。多分ちゃんとした目的があって話しかけてきてくれたのだろうし、私もチケットの事でちゃんとお話しをしたい。


「あの、こんな所で何を?」
「ハッそうだ! さっきの水族館のチケットの事なんですけど…」


正に私が確認したかった事だ。観音坂さんはオドオドと視線を彷徨わせながらも口を開いた。


「その、俺以外って言ったんですけど…えっと、本当は…っ」


言葉を詰まらせながらも私に視線を合わせ伝えようとする観音坂さんを、内心ドキドキしながらも口を閉じて見守る。


「…っ本当は…、先生と行って欲しいって伝えたかったんです!」
「先生って、寂雷さんと?」
「は…はい、先生にも自宅まで送ってもらって大変お世話になったので…その、2人で出掛けるのにどうかなぁと思って…」


成る程、俺以外ってそういう意味だったんだ。だとしたら泣きそうな表情も言い方を間違えてしまったと気づいてのものなのかもしれない。


「もしかして、それを伝える為に待っていてくれたんですか?」
「いっいえ!一度帰ろうとしたんですけど、あの言い方は無いと思って途中で引き返したんです。店の中に入るのも何だか気が引けて…それでここで待たせてもらったんですけど…」


私の為にわざわざ戻ってきてくれた、と受け取って良いのだろうか。申し訳なさそうに笑う観音坂さんに、バッグに入れておいたチケットを取り出した。


「私、水族館に行ったことが無かったので嬉しいです。本当にありがとうございます」
「いっいえ……此方こそ、喜んでもらえて良かったです」


安心しきったような笑みを浮かべる観音坂さんに私もつられて笑ってしまう。
きっかけはあまり良いとは言えないけど、そのおかげで今こうして観音坂さんの笑った顔を見れたので嬉しく思ってしまう。


「行ったら沢山写真撮って、観音坂さんに見せますね」
「あっありがとうございます! った、楽しみに、してます」


それから観音坂さんと別れた後、自宅に帰るまでの間電車に揺られながら頭の中は水族館の事でいっぱいだった。


(早く寂雷さんにこの事伝えたいなぁ…)


寂雷さんは水族館に行った事あるのかな。エサやり体験もあるみたいだから一緒にしてみたいなぁ。隣の駅だから然程かからないけれど、その少しの時間さえもどかしく感じた。




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