16




学校からの帰り道、私は本屋さんで1人悩んでいた。大体同じような事は書いてあるんだと思うけど、やっぱり買うなら一番わかりやすいものか好みの特集が載っているものが良いだろう。なんだけど…


(まさかヨコハマだけでもこんなに種類があるなんて知らなかった…!)


昨日、帰宅後すぐにチケットの寂雷さんに伝えた。心臓が爆発してしまうんじゃないかって思うぐらい緊張していたので所々言葉に詰まってしまった。それに対し最初こそ驚いた表情をしていた寂雷さんだったが、優しい表情に変わっていったかと思えば口に手を当ててそっぽを向いてしまった。


「もっもしかして嫌だった…?」
「ごめん、そうじゃないんだ。棗からこんなお誘いしてくれるなんて初めてだったから、その…嬉しくてにやけてしまって…」
「えっ見たい!」
「絶対駄目」


嬉しいと思ってくれるなんて…それに何だか寂雷さんの新たな表情?を見れて私までにやけそうだ。
それから日にちや行く時間を決め、どうせなら他の観光地にも行ってみたいとお願いすると快く承諾してくれた。

その為放課後に学校の近くにある本屋さんへ直行し、現在に至る。


(こっちのが行き方とか他の観光地の場所がわかりやすいしけど、こっちに載ってあるヨコハマのカフェ特集も気になる…でも2冊とも買うのは何だか気が引けるし…)


取り敢えず絞り出した2冊の観光雑誌を見比べていると、突然背中を突っつかれ「ヒッ?!!」と声を上げてしまった。もしかして店員さんから注意されたのかと思い急いで振り返ると、そこに居たのは本屋の店員さんではなかった。


「左馬刻さん?!」
「声でけぇよ」
「あっすみません…」


驚きのあまり大きな声を出してしまい此方に顔を向けていた周りのお客さん達にも頭を下げた。

「あの、何でここにいるんですか?」
「少し野暮用でな…。帰ろうとしたら一生懸命本と睨めっこしてるお前を見つけたんだよ」
「そうだったんですね。ありがとうございます、気にかけて貰って…」


でも野暮用って一体何なんだろう…ここはイケブクロディビジョン、つまり一郎さんのいる街だから普段は絶対近づかないのに。…前は2人共、凄く仲良かったんだけどな…。

そういえばその時期、寂雷さんが仕事で1日居ない日は左馬刻さんが運転する車に乗せてもらって、ご飯食べさせてもらったりしたっけ。そこで妹の合歓ちゃんとも友達になって…。


「…棗?」
「へっ? あっごめんなさい! 今日の晩御飯何にしようかなーって考えちゃってました」
「このタイミングでかよ。つーかお前料理ちゃんと出来るようになったのか?」
「なりましたよー! あっそうだ、昨日いち…友達の家でオムライスを作ったんですけど…ほらっ!」


写真に収めていたオムライスを見せると、左馬刻さんは「へぇ、まぁまぁ出来てんじゃねぇか」とお褒めの言葉を頂いた。そして一緒に頭も撫でてくれた。多分今私ドヤ顔してるかも。…そうだ、折角左馬刻さんと出会えたのだからオススメの観光地とか聞いてみた方が良いかも。


「あの、左馬刻さんに聞きたい事があるんですけど…」


私から事の顛末を話すと左馬刻さんの表情は呆れたものに変わっていった。


「それでずっと悩んでたのかよ」
「だってどれも魅力的で決めきれないんですもん、左馬刻さんは何処が良いと思います?」
「あ?全部に決まってんだろ」
「全部は回りきれませんよ〜」


地元愛に溢れる回答を貰ったが、それでは時間が足りなくなってしまう。


「先生は希望とかねぇのか?」
「はい…私の行きたいところで良いって言われました」
「相変わらず棗に甘ぇな、先生は」


すると左馬刻さんは私から本を取り上げて元の場所に戻した。突然の事に戸惑っていたら溜息を吐かれてしまった。


「俺も手伝ってやるから、取り敢えずそこら辺の店入んぞ」
「良いんですか?!」
「じゃねぇとずっと睨めっこのまま終わんだろ」
「ありがとうございます、左馬刻さん!」


先を歩く左馬刻さんの後に続き、すぐ近くにあった喫茶店で色んな話を聞くことが出来た。私の希望から此処が良いんじゃないかと提案して貰ったり、混む時間帯を教えてくれたり、左馬刻さんが相談に乗ってくれたおかげでどんどんルートが決まっていった。
そして気づいた時には既に日が落ちかけており、帰らないといけない時間になっていた。



「カフェオレを奢って貰った上に家まで送ってくれて、今日は本当にありがとうございました」
「おう、気にすんなや」


運転手のお兄さんに会釈すると、一瞬たじろぎながらも頭を下げてくれた。見た目怖いけど根は良い人なのかも。


「先生にもよろしく言っといてくれ。また何か聞きてぇ事あってら連絡しろ」
「わかりました。帰り、気をつけて下さいね」
「じゃあな。日曜楽しんで来いよ」
「っはい! 堪能させて頂きますね!」


左馬刻さんは笑いながら「おう、存分に堪能してけ」と私の頭をポンと軽く叩き、車に乗ってヨコハマの街へ帰っていった。随分お世話になったし、今度お礼をしないと。





- 17 -

*前次#


ページ:




戻る