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「本当、すみません…」
後部座席へと案内した後お兄さんは細身の体を縮こませ、申し訳なさからかどんよりとした空気を放っていた。
「会社の飲み会があったんですけど、そこでハゲ課長から“俺の注ぐ酒が飲めないのか”と強引に飲まされ、挙句は昔の武勇伝なるものも聞かされ…二次会の店への移動中周りに気づかれないように逃げ出せたんですけど、酔いが回ってコンビニの裏口のところで力尽きてしまって……というか、俺が酒が強ければこんな迷惑を掛けることも無かったんだ…そうだ、全て俺のせい…俺のせい…」
「独歩君、また悪い癖が出てるよ。家まで送る事なら気にしないで。棗、彼は観音坂独歩君。うちの病院でお世話になってる医療機器メーカーの社員さんで、麻天狼のメンバーの1人なんだ」
寂雷さんからメンバーが決まったという話を聞いていたけど、まさかうちの常連さんの事だったとは。
「独歩君、彼女は棗。訳あってうちで預かってるんだ」
「九条棗といいます。…観音坂さん、いつもあのコンビ二に通ってる方ですよね? 私そこでバイトしてて、よくお見かけしてました」
「あ…はい、俺も、その…見覚えある子だなって…」
(あっ覚えてくれてた…!)
観音坂さんは会計時いつも顔をうつむかせているから目を合わせられなくて、私も毎日出勤している訳ではないからやっぱり知らないかなと思っていたけれど、知っていてくれたのが何だか嬉しくて油断したら口元が緩んでしまいそうだった。
「ところで棗。こんな時間になるの今回で何度目だい?」
「えっ? あー……えへ」
「えへ、じゃないよ。高校生をこんな遅くまで働かせるなんて…」
「え、高校生」
「あっはい!今高校2年生です」
寂雷さんのお説教を回避しようと、言葉を発した観音坂さんに私は前のめりで返した。
「そ…そうなんですか……高校生…」
私の返答に観音坂さんはみるみるうちに背を丸めてしまい、先程より空気が格段に重くなったように見える。どうしたんだろう、私何か失言しちゃった?
「独歩君、そろそろ着くよ。…棗、続きは彼を降ろした後でね」
「え?! あ、あはは…」
残念ながら回避失敗のようだ。涙が出てきそうなの我慢している間にも観音坂さん宅のマンションの入り口付近へと車を停める。
「お二人とも、本当にお世話になりました。あの、お礼の方は必ず致しますので…」
「いいんだよ独歩君、とりあえず今日は早目に休んでね」
「は、はい、ありがとうございます…失礼します」
「あっあの、観音坂さん!」
車から降りた観音坂さんの後を追うように私もシートベルトを外し、車から降りる。私の行動に吃驚しているようで「え?え?」と上手く言葉を発せないでいる観音坂さんに先日店長から貰った、コンビニの焼き鳥2本無料券を彼の手に握らせた。鞄に入れっぱなしにしていたせいかぐしゃぐしゃになっていたそれを見つめる観音坂さんはまだ困惑してるようだ。
「え、と…これは…」
「もし良かったら使って下さい。期限ないのでいつでも大丈夫ですので、その、うちのコンビニ焼き鳥も美味しいので!」
断られる前に「それじゃおやすみなさい!」と先手を取る私の勢いに押されたのか「お、おやすみなさい」と挨拶を返してくれた。相変わらず動揺したままだったけれど。
△▼△
「…棗は独歩君の事が好きなのかい?」
「へ?」
ハンドルを左に切る寂雷さんからの唐突な質問に声が上擦ってしまった。思わず目を向けた寂雷さんの横顔は何故か穏やかだ。
「彼と前から面識あるようだし、さっきも無料券をあげていたから、もしかして好意を持っていたのかなと思ってね」
「んーそういうのじゃない、けど…、」
毎度見かける観音坂さんの表情はいつも疲れていて、しんどそうにしていて、大丈夫かなと内心心配していた。
「少しでも元気にしてあげられたらなぁって思ってて…あ、さっきのは押し売りかもだけど…」
「ふふ、まぁ迷惑だったかどうかは近いうちにわかるんじゃないかな」
「? それってどういう…」
「その話は置いといて、さっきの話の続きなんだけど、」
「わー急に眠くなってきちゃったおやすみなさい」
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