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あれから乱数君と別れ、寂雷さんに“今から帰るね。ご飯は家で食べます”とお気に入りの小熊のスタンプも添えてメッセージを送った。時間を見ると18時を回っていて、寂雷さんももう仕事が終わってる時間だなと考えていたら“私も今から帰るところだから、晩ご飯一緒に食べれるね”と返信がきた。その一言が嬉しくてニヤニヤしてしまう。
口元が緩んだまま公園の前を通り過ぎようとしたが、視界に入ったとある人物が気になり思わず足を止めてしまった。
少し廃れてしまっている公園にベンチに上半身だけを乗せて座り込んでいる男性がいる。もしかして何処か具合が悪いとか…?
周りには人ひとりおらず、もし体調を崩しているのであれば大変だ。その男性の元へと急いで向かった。
「あの、大丈夫ですか?」
ふと、そういえば昨日もこんな風に観音坂さんに声を掛けたなと、酔いが回りフラフラだった彼のことを思い出した。
「……」
しかし男性はピクリとも動かない。
もしかして相当具合が悪いのだろうか。
「もしもし、大丈夫ですか? 私の声聞こえますか?」
次は軽く肩を叩いてみる。すると「ぅう…」と呻き声が小さく聞こえ、その後すぐにぐぎゅるるうとお腹の方から大きな音が聞こえてきた。
「……な…なに、か…食いもん……」
…うん。とりあえず救急車は呼ばなくても大丈夫っぽい、かな?
△▼△
「いやーマジで助かったぜ!今回ばかりは本気で死を覚悟してたからよ」
緑青色のモッズコートを身に包んだお兄さんは、私が買ってきた肉まんとカレーまんを両手に持って満面の笑みを浮かべていた。
食べ物といえば飴しか持っていなかったので、とりあえず近くのコンビニから即席で買ってきたものだけど喜んでいるようなので良かった。
「いえいえ、元気になられたみたいで良かったです。あ、水も買ってきたのでよかったら」
水の入ったペットボトルを渡そうとすると、お兄さんの両目から涙が溢れでてきていた。
「ど、どうしたんですか?! もしかして何処か痛みます?」
「いや、そうじゃねぇんだ…。見ず知らずの野郎にここまでしてくれるなんて、この世も捨てたもんじゃねぇなと思ってよ…」
声にならない嗚咽を漏らしながらも肉まんを食べきり、次はカレーまんに齧り付くお兄さん。もしかしたら彼は今までひどい風当たりを受けて生きてきたのかもしれない、と思いつつその様子を見守った。
それから1分も経たない内にカレーまんも食べ切り、ペットボトルの水を飲んだ後満面の笑みを此方へと向けた。
「本当ありがとな。あんたは命の恩人だ」
「そんな、恩人だなんて」
「何かお返ししてぇのは山々なんだが、生憎今手持ちが全然ねぇんだよ…」
「いやいやお返しなんていらないですから!」
「私がしたくてした事なので」と言うとお兄さんは「あんた女神か…っ!」とまた目を潤ませていた。
「めっ女神だなんてそんな、言い過ぎですよ…」
まさか面と向かってそんな事言われると思ってなかったので気恥ずかしい。段々と顔も火照ってきた。
「そういえば、どうしてこんな所で行き倒れてたんですか?」
「ああ、パチンコですっちまってな。飯食う金も無くて朝から何も口にしてなくてよー…ダチにも連絡したが繋がらなくて、もうこのまま飢え死にするんだろうなってとこであんたが助けてくれたって訳だ」
「それは大変でしたね」
私は未成年なので勿論、寂雷さんもそういった類の遊びは一切しないのでパチンコという物は名前しか知らない。しかし、お金が無くなるほど打ち込んでしまうものという事はお兄さんのおかげで学べた気がする。
「そういえばまだ名乗ってなかったな、俺は有栖川帝統っていうんだ。帝統でいいぜ!お前の名前は?」
「私は九条棗っていいます」
「棗なって、あそこいるの幻太郎じゃねーか!」
「げんた…?」
疑問符を浮かべる私を気にせず帝統さんは公園の前を歩いている…背格好からして男性だろうか、その人に向かって「おーいげんたろー!」と大きな声で名前を呼んでいる。今の時代には珍しく書生風の格好をしており、お兄さんに呼ばれたのに気づいたのか此方へ近づいてきた。
「帝統、そんな所で何を……まさかお金が無いあまり女性にたかって、」
「違ぇよ! 俺が飢え死にしそうなところをこいつが助けてくれたんだよ。あ、棗、こいつ俺のダチで夢野幻太郎っていうんだ」
帝統さんの言葉を聞いて次は私の方へ顔を向ける夢野さんに「えっと、九条棗です」と名乗り軽く会釈すると夢野さんも「紹介に預かりました、夢野幻太郎です」と返してくれた。それにしても、こっちに来るときにも思ったけど彼は凄く綺麗な顔をしている。所謂美人顔だ。男性にこういうのも失礼かもしれないが。…というか、夢野幻太郎って何処かで聞いたことがあるような…。
「ていうか幻太郎!俺の電話気づかなかったのかよ!」
「ああ、帝統の番号は着拒していたので繋がらなかったのでしょう」
「えっ……マジ?」
「まぁ嘘ですけど。担当との打ち合わせがあったのでマナーモードにしてたんですよ」
「そっそういう嘘マジでやめろよな…っ!」
2人のやりとりからしてだいぶ仲が良いらしい。しかし夢野さんの嘘がショックだったらしい帝統さんは顔を青くさせていた。
「とりあえず、見ず知らずの女性にもたかるような下衆野郎を助けて頂きありがとうございました。お金の方は小生の方から立て替えますので」
「だからたかってねーって!」
「お金なら大丈夫です、そんなに高いもの買った訳ではないので…寧ろ肉まんとカレーまんだけで大丈夫でしたかね」
もう少しお腹に溜まりそうなのを買えば良かったなと後になって後悔してしまう。しかしそんな私を夢野さんは目を丸くさせ、驚いている様子だった。私変な事言った?
「これはまた…貴女、重度のお人好しなのですね」
「あー…よく言われます」
これまで幾度となく言われ、随分と聞き慣れてしまった言葉に思わず苦笑してしまう。
ふと、公園に構えられている時計に目をやると寂雷さんに連絡を入れてから既に1時間近く経っていた。
「すみません、私もう帰らないと!帝統さんパチンコは程々にして下さいね!夢野さんもありがとうございました、それじゃあ失礼します!」
「えっ、おい!」
早口になってしまって申し訳ないが、寂雷さんに心配をかけない為だ。言い切った後すぐ様駅に向かおうと何か言い掛けている帝統さんに背を向ける。
「俺大体ここの公園いるから次シブヤ来たらまた来いよー!そん時金あったら奢るからよーー!」
「はーい!ありがとうございまーす!」
帝統さんからの言葉に私は振り返って大声で答えた。
少し変わってるけど根はとても良い人だ。
彼の言う通り、次シブヤに来たらまたここに来よう。
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