この数年、教皇様はリカンツ狩りを強化なさっている。
昔——私が養子になって間もない頃の教皇様はリカンツ狩りには否定的だったように思う。彼がどうして今になってリカンツ狩りを推進するようになったのか、私には分からない。何か私では想像もつかないような大きな理由があるのだろう。
だけどリカンツ狩りに駆り出されるのはいつだって異端審問官だ。そもそも異端審問官という役職自体がリカンツ狩りの為に存在しているといっても過言ではない。自分の息子を、優しくて争いを好まない性質の少年を、そのような役職に就かせていることにはどうしても納得できない。
少なくとも私の知る教皇様はルキウスを大事に思っていらっしゃったし、息子を極力守ろうとなさっていた。実の娘ではない私にさえ、平等に接してくださった愛の深い方なのだ。
「異端審問官の道はボクが自ら選んだものだ。いくら家族とはいえキミが気にすることじゃない」
ルキウスはそう言っているけれど、彼のことだから自分の選んだ道が血に塗れていることも、その道が破滅をもたらすことはあれども誰かを救うことなどないことも理解しているだろう。
そして教会に所属している私もまた、リカンツへの差別を助長させている側にいる。教皇様の養子とはいえ私には教会以外の選択肢も用意されていたし、子供の頃と違って教皇様やルキウスの力を借りずとも生きていけた。私の立場で救われない境遇に身を置くルキウスのことを憐れむのもきっとお門違いだ。
——ルキウスなら、教皇様が何をなさっているのか分かるのだろうか。分かっていてその道へ進む決断をしたのだろうか。何も知らない私と違って。
「ボクは父さん——教皇様が必要としてくださる限り、この道を往くと決めているんだ」
「……ルキウスは昔から教皇様のことが大好きだったからねぇ」
教皇様をお慕いしているのは私も同じだけど、ルキウスのそれとは違う。
ルキウスにとって教皇様は唯一の肉親で、私が養子になる前はルキウスにとって世界でただ一人の味方だった。お母様……つまり教皇様の伴侶となった女性はルキウスを産んで間もないうちに亡くなってしまったらしい。
私は両親に捨てられて、愛されたかったとは思ったけれど今となっては実の親を探したいとも思わない。今更彼らと会ったところで愛してもらえないことは明白だし、赤の他人のように振る舞われるかもしれない。或いは私が教皇様の養子になったと知って、その地位を目当てにすり寄ってくる可能性も……。
血の繋がりが何よりも大切だとは思わないけれど、血を分けた家族だからこその繋がりや深い絆もあるものだと思う。そういう意味で、私とルキウスの教皇様への想いは恐らく根本的に違うものだ。
「……でもやっぱり家族として心配してしまうことは許してほしいな。教皇様にはどうしてもお会い出来ないことも多いけれどルキウスは私にとって一番近くにいる大切な人だもの」
「…………アルエットはよく分からないな」
「そういうルキウスは優しいね」
だって私のことを邪険にはしないしこうして心配もさせてくれる。
そんな優しい子だからこそ異端審問官という教会の中でも特に暗部ともいえる役職に身を置いている彼の心がすり減ってしまいそうで、少し恐ろしくなるのだ。