「きょーこーさまと一緒にお出かけしたい!」
「だめだよアルエット、父さんは忙しいんだから」
教皇様の養子となった直後は流石に遠慮してわがままなんて言えなかった私も慣れてくると自分の気持ちを伝えられるようになった。
わがままと言っても一緒に遊びたいとかお出かけしたいとか、子供なら珍しくもない可愛らしい要求だ。今思えば教皇様は多忙を極めていらっしゃったし子供だったとはいえ随分と振り回してしまったような気がする。
ルキウスの言い分は尤もだと今なら分かるし、だけど教皇様は嫌な顔ひとつせずに付き合ってくださった。実の親に愛されなかった私にとっては父に愛されたという実感が持てた思い出だし母親のいないルキウスにとってもそれは同じことだと思う。
——教皇様は出会った頃から最愛の人を失った悲しみと絶望で塞ぎ込んでいることもあったけれど、それでも子供たちに惜しみない愛を与えてくださる方だった。
◇
「久しぶりに会えたと思ったらなあに、アルエット。教皇様のところへ行くの?」
「まあ、行ったところでお会い出来ないだろうけどね」
少女、ロミーの問いに私は思わず苦笑する。彼女のことはよく知っている。私が教会に来て暫く経った頃に知り合ってルキウスと同じくらい仲良くしてくれている女の子だ。
最近はお互いにタイミングが合わずなかなか会えない日が続いていたけれど確かロミーは異端審問官になったのだと聞いている。ルキウスとコンビを組んで活動していると聞いたが詳しい話は知らない。
異端審問官はあまり人には言えないような仕事をすることもあるらしいから深く掘り下げないほうがいいのかもしれないと思いルキウスにもその辺の話は詳しく聞かなかった。
「教皇様は今もお忙しいだろうし差し入れくらいは……と思うのだけど危険物を疑われて受け取ってもらえないだろうし」
「アルエットは昔から教皇様のことが好きね。それはルキウスもだけど」
近くで見ていれば分かるわ、とはロミー談。
「教会は教皇様に恩がある人が多いからね。私も含めて」
私やルキウスが教皇様の子であることを知られてはならない。そのため私たちは教会に預けられた子供として扱われていた。
実際に様々な事情でジャンナ教会に預けられる子供というのは時々ある。教育の一環として数年ほど教会で司祭や僧兵の仕事を学ばせる為に預けられた子もいれば生まれてすぐに教会の前に置き去りにされてしまう子もいる。
そのような子たちを預かって大きくなったら教会で——或いは教会の外の世界でも生きていけるように教育をしているのだ。
私たちも表向きは大人になったら教会で働くのが夢で住み込みで教会の仕事を学ぶ子供という扱いになっていた。複雑な事情を抱えた子もいるから親のことを尋ねられることは殆どなかったし、仮に聞かれても家庭の事情で親元を離れて勉強中だと言えば納得してもらえたので困ることはない。
実際にルキウスは異端審問官になったし私も僧兵として活動しているから完全に嘘は言っていないと思う。
そういう子供たちの中には大きくなっても教皇様に恩を感じ彼のことを親のように慕う子もいる。
「ロミー、こんなところにいたのか」
聞き慣れた声と見慣れたマント。ルキウスがロミーに用事がある、ということは異端審問官の仕事の話だろうか。
「異端審問官に集合がかかっている」
「集合? 異端審問官に?」
「全員集めるように、と教皇様は仰った。恐らくとても重要な話だろう」
何だか大変な話みたいだ。
異端審問官のみを呼び集めているということはきっと私には関係のない話だろうし、関係があるとしても後から他の人の手によって伝えられるものだろう。
私はちらりとルキウスのほうへと視線を投げる。表情は仮面で窺い知ることが出来ない。
「審問官も忙しいみたいだし、私はこの辺で失礼するね」
「アルエット」
「ルキウス?」
ルキウスに名前を呼ばれ、振り返る。
「教皇様に何かあるならボクのほうから伝えておくけど」
「……ううん、大丈夫。教皇様お忙しそうだからきちんと休まれているのかなって心配だっただけだし、審問官に招集をかけているってことは体調を崩されているわけではないだろうから」
「そうか。教皇様もキミからの厚意を無下にはしないと思うけど」
「教皇様はね。お付きの人がいたりするでしょう。その人たちは私みたいな存在を相手にしてくれないよ」
この大陸で教皇様の持つ影響力はとてつもないものだし、彼が倒れてしまったら国がひっくり返ってしまう可能性だってあるのだから教会で働く人だとしても警戒するのは仕方のないことなのだけど。
万が一にでも教皇様を暗殺しようなどと考える不埒な輩がジャンナ教会に紛れ込んでいるとも限らないし。
「それじゃ、ルキウス、ロミー。またね」
近いうちに教皇様にお会いすることが出来ればいいのだけれど、まだ難しそうだ。