灯火は絶やさない

 ——アルエットと初めて出会った日のことを今も覚えている。
 あの日のボクは当時の異端審問官の一人からプリセプツを教わっていた。元々プリセプツの才能に長けていたボクは同年代の子供たちがプリセプツのプの字も知らないような頃から火をおこしたり風を操ったりする術を得意としていた。
 最初は父さんから簡単な術を教わり、基本的な術を一通りマスターしてからは異端審問官だという人たちに高度な術を教えてもらう機会が増えて……まだ転移のプリセプツや呪縛のプリセプツは存在すら知らなかったけれど、弱い魔物であれば一人で追い払える程度の術は使えるようになっていたと思う。
 朝から異端審問官に複雑なプリセプツを教わって、その帰りにふと見かけた子供がアルエットだった。年齢はボクよりも少しだけ上に見える。兄姉や親の姿は見当たらない。
 教会に子供がいる、というのは珍しいことではなかった。両親に連れられてやってくる子供は割と見かけたし、将来は僧になりたいからと幼い頃から教会に通い様々なことを学んでいる子もいる。
 だけどアルエットはそのような子供に見えなかったし、いつまで経っても動こうともせずにぼんやりと壁や天井を見つめていた。その姿が妙に不安になって、気付けば彼女に声をかけていた。それがボクとアルエットが出会ったはじまりの日。



「アルエット。これ、父さんから」
「教皇様から?」
「ほら、今日はキミがここに来た日だろう? 忙しくて一緒に過ごすことは出来ないけどせめてプレゼントを、だって」

 ポカンとしているアルエットに父さんから預かったものを手渡しながら説明する。
 アルエットは自分の誕生日をボクにも父さんにも言おうとしなかった。覚えていない、というわけではなく実の両親に愛してもらえなかった自分の生まれを祝ってほしくないということらしい。
 だから彼女の本当の誕生日をボクは知らない。代わりにアルエットと出会った日をボクたちは祝うようになった。といってもプレゼントを渡すとかいつもより少しだけ豪華な食事を用意するとか、その程度のことしか出来ないけれど。

「……ボクからも用意してる。父さんのプレゼントと比べたら大したものじゃないかもしれないけどね」
「ううん、ルキウスが私の為に何かしてくれるの嬉しい。ありがとう」

 ボクにとってあの日が印象深いものであるように、彼女にとってもあの日が特別なものであれば嬉しい。