その煌めきを解き放って

 ——生まれたときから私はどこかおかしかった。

 目が覚めたら違う世界にいた。どうやらここはアレウーラと呼ばれている大陸らしい。ここに来る前のことはよく覚えていない。確か目の前に大きな門が現れてその中に吸い込まれて意識を失ったような気がするけれど、それが夢であるという可能性もある。

 私はこのアレウーラ大陸ではスポットと呼ばれ恐れられている魔物だった。ヒトに取り憑いて自我を奪い体を乗っ取る魔物だ。大半のスポットはその生態に何も違和感を覚えてはいないし、罪悪感もないだろう。
 だが私は生まれたときからずっと自分の在り方に違和感を覚えていた。別に誰かに寄生しなければ生きられないということもなかったし抑えられないような衝動があるわけでもない。
 ただ人間より小さな体と短い手足が不便だな、と思うくらいだ。それも人間だって背の低い人は高い場所にあるものを自分では取れなくて誰かに助けを求めたり踏み台を使って何とかしているし、背が高すぎると今度は頭をぶつけやすくなってしまう。私が不便に思うこの体の特徴は人間の個体差とあまり変わらない気がした。
 万が一人間に寄生しなければ生きられないような体だったとしたら私はおかしくなって、その場で自害していただろう。
 スポットの中で私のような考えの者は異端で、少なくとも私は他に見たこともなかった。

「ここにもスポットが……!」

 仮面で顔を隠した異端審問官の少年が私の姿を見て即座に杖を構えた。
 彼のことはよく知っている。教会で最年少の異端審問官で、生命の法なる術で門を開き我々スポットをアレウーラ大陸に呼び寄せてしまっている存在の一人。実際には好きでスポットを呼び寄せているわけではないらしいけれど。
 指示を出しているのは教皇だ。残念ながらあの教皇は他のスポットに取り憑かれてしまっていてもう自我が残っているのかも怪しい。
 私は彼のことをずっと見ていた。おかしくなってしまった教皇に従い、彼の命じるままに獣を狩る少年。一人で苦しみながらもその傷を隠し続けていた。
 スポットの中で異端だった私と同じように、もしかしたら彼はアレウーラで生きている命の中でも異端なのかもしれない。そう思うと彼から目が離せなくなった。

「……あなたに倒されるのなら悪くないかもしれないわ」
「…………っ」

 生きているだけで恐れられるのも、同族との違いに苦しむのも、疲れるだけだもの。
 少年は一瞬動きを止めて——それでも意を決して術の詠唱を始めた。嗚呼、これでやっと。違和感だらけの生から解放される。