リカンツが死んだ。
この大陸ではリカンツの死など珍しくもない。異端者狩りの犠牲になって動かなくなった骸に視線を落とす。彼はまだ幼い我が子を庇った。ロミー様の放ったプリセプツで全身に火が回り息絶えた。焦げた臭いだけが充満している。
彼が守ろうとした子供は恐怖からか動くことさえ出来ずにガタガタと震えていた。可哀想ではあるがこの子供はジャンナに移送されるだろう。その先に待つのは拷問か、それとも処刑か。私には分からないけれど恐らく碌な目には遭わない。
「クロシェット」
「お呼びですか、ルキウス様」
「ボクは異端審問官としてあの子供を捕縛する。キミはボクの援護を」
「承知致しました」
異端審問官の任務に同行する僧兵として、見慣れてしまった光景。相手がリカンツとはいえ私にも彼らの扱いに胸を痛める程度の良心は残っている。
それでもこの仕事を続けているのはルキウス様がいるからだ。幼い頃の私はまだ異端審問官となる前のルキウス様に何度も助けていただいた。気が弱くコミュニケーションも苦手だった私はいじめの標的になりやすく、よく揶揄われていた。家族を流行病で亡くし、身寄りもなくジャンナの教会に預けられていたから同年代の子供たちから浮いていたのも影響していたのかもしれない。
毎日のようにいじめられ泣いていた私を助けてくださったのが他でもないルキウス様だ。彼が最年少の異端審問官になったときは驚いたけれど、あの優しかった男の子がこのような仕事をするのは理由がある筈だ、どんな事情なのかは分からないけれど今度は私が彼を助けようとその時に決意した。
その場を動くことが出来ない子供の捕縛は随分と呆気ないものだ。リカンツだけが使える獣人化の力で抵抗されたらいくら子供とはいえある程度の苦戦はしただろうけれど、獣人化しないのならばヒトの子供と変わらない。
——だからこそ、この無力な子供を捕らえることに対する疑問も湧くのだけれど教皇様の真意は恐らく私には理解できない。
「……クロシェットは昔とは少し変わった気がする」
「そういうルキウス様はお変わりなく」
「ボクを昔から知ってる人は大体ボクのことを昔とは変わったって言うんだけどな」
「私にはあの頃からずっと変わりませんよ、もちろん良い意味で」
仮面の奥に隠された表情は私には読み取れないけれど、異端審問官としての職務をこなしながらも苦しんでいるように見えたから。あの時の優しさは損なわれていないのだと安堵したことを思い出す。
それは私にとって救いで、これからもルキウス様に付き従う理由になる。
「……ジャンナに戻ろうか。ロミーは先に戻ってしまったし、ボクたちがこれ以上長居する理由もない」
「分かりました」
この教会がどこへ向かおうとしているのか、辿り着く先が地獄だったとしても……私はあらゆる手段でルキウス様を助け出すのみ。