子供の頃から私には不思議な力があった。
呪文を唱えれば簡単に水を生み出すことが出来たのだ。魔法に関する本なんて一度も読んだことはない。そのようなものをどこで読めるのかさえ知らなかった。
ただ、ふとした瞬間に脳内に言葉が浮かぶのだ。意味も分からないままその言葉を口にすると何もない場所からバケツ一杯の水が出てくるのだと気付いた。
最初こそ故郷で重宝されていたその能力も、やがて生まれながらに謎の力を使うバケモノとして迫害されるようになった。脳に浮かんだ謎の言葉を呟けば無から水を生み出せる、なんて不気味がられても仕方ないことだろう。
そうして私は「魔女」と呼ばれ、ジャンナの教会へと差し出されたのだ。この娘も異端者に違いない、と。
「君のその力はプリセプツと言って、本人の資質さえあれば訓練で使えるようになるものだ」
「プリセプツ……」
「尤も、練習もしていないのに生まれつき使えるのは相当珍しい事例だろうけどね。この教会ではプリセプツの使い手はそう珍しくない。ボクもプリセプツを使えるんだ」
教会で出会った少年、ルキウスはそう説明してくれた。
「じゃあ、私は魔女じゃないの?」
「もちろん。そもそも、魔女だったとしても教会はプリセプツを使えるというだけで処刑したりはしないよ。教会としてもプリセプツが使える貴重な人材は歓迎しているくらいだし」
——故郷の村は地図にも載らないような小さな村だった。ジャンナのような大きな都市との交易も殆どないからプリセプツのことも伝わっていなかったのだろう。想像でしかないけれど。
最初は私の力を持て囃していたくせに、急に魔女として追い出した故郷の人たちへの恨みはある。いずれは村を水没させる気だ、なんて言われたのも一度や二度ではない。
それでも私の力がまた違う誰かの助けになるかもしれないと分かったから……彼らへの恨みつらみを漏らすのはやめた。
「君が望むのなら教会で仕事を見つけるといい。教皇様もきっと君を必要としてくださる」
「……私が、望むなら」
故郷でも最初は私を必要としてくれていた。
いつのまにか私の持つ力は不気味で恐ろしい、人に仇をなす為のものだと迫害されるに至ったけれど、もっと幼い頃は故郷が水不足に陥ったときに窮地を救うヒーローのように扱われた。
私はそれが嬉しくて誇らしくて……力を乱用したから自分たちの理解が及ばない異能を操る女として迫害されたのかもしれない。
「他に行く場所なんてないから……あなた達が必要としてくれるのなら、信じてみてもいい」
「決まりだね」
こうして恐ろしい魔女は死に、一人の聖職者が生まれた。