「有名人がこんなところで油を売っていていいんですか」
「有名人にも時々息抜きが必要なの」
閉店間際のレストランは閑散としている。店内を見渡してみても数人の客が一人で、或いは相棒ポケモンと共に紅茶やデザートを楽しんでいるだけだ。
ナマエは注文していたチーズケーキを口に運んで顔を綻ばせた。
幼馴染のナマエは昔から気紛れで、その場のノリと勢いで生きていると言っても過言ではないような性格だった。
ある時はポケモントレーナーになりたいと言い出してその日のうちにチョロネコを捕まえてきたし、またある時は他の地方で自分の実力が通用するか試してみたいと遠いカロス地方へと旅立ち暫く戻ってこなかった。カロス地方では六人目のジムリーダーを倒すところまでは進めたようだったけれど、流石にそれ以降のジムリーダーや四天王には辿り着けなかったらしい。尤も本人は自分は割とやれるほうだと満足げだったけれど。
そんな彼女が有名な役者になりたいとサンヨウシティを飛び出したのは一年前。その行動力だけは見習いたい、なんて思っているうちにポケウッドでナマエが相棒のレパルダスと共に出演した映画が大ヒットした。その後も彼女が出演した映画は悉くヒットし、今ではナマエも有名人だ。
「子供の頃はチャンピオンになりたい、と言っていたような気がしますが」
「チャンピオンなんて、簡単に叶うような夢じゃないもの。今のイッシュ地方チャンピオン——アイリスちゃんはまだ幼いながらにすごいトレーナーだし、数年前までチャンピオンだったアデクさんも私では勝てないなって見ているだけでわかるよ」
「それで役者を目指すのはナマエらしいですよね、よく分かりませんけど」
「あ、言っとくけど別にチャンピオンの夢を諦めたわけじゃないからね」
カロス地方のチャンピオンはチャンピオンであると同時に有名な女優なのだという。ただそこにいて微笑むだけで場が華やかになるような、そんな力がある人。
トレーナーとしてその地方で一番とも言えるほど強い人が、トレーナー以外の分野でも有名になって輝いているというところに憧れを抱いたのだとナマエは笑う。
「幼馴染はジムリーダーだからさ、私も幼馴染に恥じないくらい強くなりたいんだよ」
「今はジムリーダーではありませんけどね」
「でも、あの頃よりも強くなったでしょう?」
「それはまあ、今も鍛えていますからね」
店の手伝いをしているヒヤッキーに視線を投げる。ヒヤップだった頃からジムリーダーの相棒として共に歩んできたポケモン。
あの時と比べて進化したし強くもなった。ジムリーダーは旅立ったトレーナーの実力を試す立場でもある以上、対戦相手の実力によっては本気を出せないこともあったし、いつでも全力で戦える今のほうが自由なのかもしれない。
「いつか私がチャンピオンになったら、私と勝負しよう」
「それは、負けられませんね」
そんな、いつかの夢をみる。