国際警察の一員として、イッシュ地方で勢力を拡大している怪しげな組織の実態を暴け——そんな指令を受けて組織に潜り込んだのは数ヶ月前。
正直に言えばあまり受けたくはない任務だった。プラズマ団と名乗る怪しげな組織はポケモンの解放を謳い、時には強引に人々からポケモンを奪っていると聞く。
組織に潜入するとき、怪しまれないように普段の任務を共にしている相棒は置いてきた。忠誠の証として相棒を今すぐに手放せ、と言われたら演技でも心が痛む。それに、下っ端団員はともかく七賢人や王の目を誤魔化すのは容易ではない。
だったら最初からポケモンを持たない入団希望者を装ったほうが手っ取り早い。幸い、国際警察から与えられたコードネームとも本名とも違う名前を名乗り、適当にそれっぽいことを話せばすぐにプラズマ団の一員として迎え入れられた。
◇
私は任務に失敗した。
もう国際警察に戻ることは出来ないだろう。置いてきた相棒とも恐らくは二度と会えない。薄暗い部屋で目隠しをされ、手足を拘束された私は最早自力で動くことさえ出来ないのだから。
この組織の実権を握っているのは王ではなく七賢人の一人、ゲーチスと呼ばれている男であるというのは潜入してすぐに気付いた。彼のことを探り、仲間に報告すれば対策を講じて組織を壊滅に追い込む筈だ——そう判断して調査を開始したが、私はどうやらゲーチスに近づきすぎてしまったらしい。
私の正体に気付いたゲーチスはダークトリニティを使って私を誘拐し、どこか分からない部屋に閉じ込めてしまった。一日に二度……目隠しをされていて時間は分からないが恐らく朝と夕方頃に食事が運ばれてくる辺り、まだ私を死なせる気はないらしい。
食事に毒を盛られていれば別だが、ポケモンも武器も持たない私などいつでも好きに殺せる筈だ。そうしないのは利用価値があると判断されているからか、それとも単なる気紛れか。
「我らが王は自らが英雄であることを示しました。アナタには特別に、王の号令で人々がポケモンを手放していくところを見せて差し上げましょう」
「……悪趣味」
「何とでも。今更、アナタに出来ることなどないのです。プラズマ団の邪魔をする愚かなトレーナーは……まあ、ワタクシの敵ではないでしょう」
くつくつと笑う声だけが部屋に響く。
目隠しをされた私には彼の表情を窺い知ることは出来ない。特別扱い、というには無様に床に転がされているし辛うじて生かされているだけで大事にされているという感覚もない。
「アナタをプラズマ団に送り込んだ者は、余程無能だったのでしょうね」
「お前に何が分かる」
「分かりますとも。組織の重要な諜報活動に実力の伴わない人間を送り込むなど、ワタクシが同じ立場ならばあり得ない判断です」
「……全て退き際を誤った私のミスだ。組織の判断に間違いはなかった」
私をスパイにするという判断も、様々な適性を見て決められたこと。その為の訓練も受けてきた。
「未だに助けが来ると信じているアナタの姿は愚かで滑稽で——だからこそ愛おしい」
「本心ではそう思っていないくせに、本当に悪趣味な男」
醜悪で、他者への愛情なんて決して持ち合わせていない。
監禁される前に何度か見たゲーチスの相棒であるサザンドラも彼に心を許していないように見えた。そしてゲーチスもまた、サザンドラを道具としては信頼していても相棒として心を通わせてはいなかった。
——そんな男に捕まった私は彼の気紛れで、光も届かない場所で飼い殺されるのかもしれない。