渇望

 五年前、カロス地方で悪事を働いていたフレア団はとある少年少女の手で壊滅に追いやられた。
 組織を率いていた男、フラダリは失踪。五年経った今でも生死を含めて不明である。当時は警察もフラダリを捕縛する為に手を尽くしたが結局痕跡は何ひとつ見つからなかった。亡骸すら見つかっていないので今も生存しているのではという噂もあるが真相は定かではない。
 組織内での影響力が大きい幹部や科学者の面々は殆どが捕縛されたという。下っ端連中は流石に数が多すぎて全員を捕らえることは難しかったようだが犯罪行為に加担したメンバーはそれなりの罰を受けているようだ。
 大きな組織だったし「フレア団に入団すれば命は助かる」と言われて大金を払い保身に走っただけで犯罪行為に関わる度胸もない下っ端も一定数いたし、次代のフレア団の中枢を担う為に教育されていた団員もいたが彼らが今どうしているのか知る由もない。
 ただ、このミアレシティでフレア団に所属していたなんて過去が明るみになれば迫害は免れないだろう。フラダリが起こした一連の事件は決して風化していないし、フレア団の被害者もいるのだから仕方のないことなのかもしれない。



 五年前、女は国際警察の任務の一環でフレア団に潜入していた。
 表向きは善良な企業だが不穏な動きがある、調査せよ。そんな上司からの命でフレア団の下っ端団員として組織に潜り込んだ。
 強いトレーナーであると知られれば目立つし不審に思われるだろう。危険だと理解しながらもカロス地方に到着したときに捕まえたヤヤコマだけを連れてフラダリの思想に感化された従順な下っ端として振る舞っていた。
 組織に潜入して数ヶ月、漸くフラダリの真の目的を掴んで上司へ報告、対策を練ろうという頃に組織に乗り込んできた少年少女がフレア団を壊滅させた。壊滅させてしまった。子供たちを危険な目に遭わせるわけにはいかないしいつでも救出できるように準備していたが、その必要もなかった。

「元フレア団の関係者が何かやらかすかもしれないから探りを入れろ、ってのが上の命令だったんだけど問題なしって報告しておけばいいかな」
「…………そんなことをおれの前で話していいんですか」
「良いことではないだろうね。でも君、フラダリの最後の行動を称賛しているわけではないでしょう?」

 フレア団の二世団員。当時のフレア団が教育していた戦力。グリ、と呼ばれていた男。
 ナマエがその人と再会したのはほんの偶然だった。新しい任務でミアレシティを訪れたとき、ミアレシティでは珍しいキッチンカー形式のカフェを見かけて立ち寄ったら店長が見知った顔だった。それだけだ。
 見知った、と言ってもフレア団では下っ端だったナマエとエリートとして教育されていたグリとでは立場に大きな違いがある。少なくとも直接会話したことはなかったし、ナマエがそれなりに有名人だったグリを知っているのは普通でもグリが単なる下っ端のことを知っている筈がない。
 だから気付かないふりをしようとしたのだが——グリはナマエのことを当時から知っていた。曰く、心から組織に忠誠を誓っているとは思えないし保身の為に入団したようにも見えなかったから警戒していたらしい。

「君はミアレシティに愛着もあるし街を壊そうなんて思っていない。違う?」
「……それは」
「もしも不穏な動きがあれば私だって上に報告して対策も練るけど、君たちフレア団ヌーヴォの活動は今のところ健全なものに見える。だから私は静観」

 ヌーヴォカフェが持たざる者へ無償提供していることも把握しているが、現時点では単なる慈善事業の域を出ない。その慈善事業さえも悪事の隠れ蓑だというのならいっそ感心してしまうくらいだが、証拠も出てこないのに疑いを向け続けるのは彼らへの侮辱だ。
 確かに店員は全員が元フレア団。それを国際警察に告げれば要警戒と判断されるかもしれないが、少なくともナマエはそれを望んでいない。

「国際警察の上層部がどういう考えを持っているか分からないけど、私はやり直す機会は平等に与えられるべきだと思ってる。君や他の元フレア団が真面目に生きるのなら手助けしたいし、元フレア団であるが故に受ける迫害はなくしたい」
「お人好しですね。おれとしても敵意のない相手と戦う理由はありませんが」

 フレア団があった頃はその実力を発揮する機会は終ぞ訪れなかったようだが、グリの強さがどれほどのものなのか噂は嫌というほど聞いている。
 あれから五年が経過して更に強くなっているだろう。国際警察でそれなりに厳しい訓練を受けてきたナマエだが真正面から戦っても勝ち目は薄いことも理解している。

「フラダリがかつて抱いた理想自体は良いものだったと思っているから。なんて、上に聞かれたらクビになってしまうかもしれないけど」
「おれたちを疑っているわけではないのなら関わらずにいればいいのに」
「お互いに交わらず生きていくのはあまりにも寂しい、でしょう?」

 事情を知っているのに無関心を貫くだなんて、それはこおりタイプのポケモンが放つ技よりも冷たくて、理想からは程遠い。