*過去捏造
——人は努力次第でいくらでも変われる、とは言うけれども。いくらなんでも変わりすぎではないだろうか。
久しぶりに会った幼馴染を前に、私は困惑の色を隠せなかった。視界を覆うほどの筋肉の塊に子供の頃の面影を残した美しい顔立ちの青年。一瞬、この人が幼馴染だと気付かなかったほど。
最後に会ったのはもう何年も前だ。私は親の都合でアローラ地方に引っ越し、それ以来は時折メールや手紙でやりとりをするくらい。
メールでのやり取りを始めた頃に自分が触るとスマホロトムを壊してしまうから、と文章を妹のムクちゃんが代筆していると聞いたときは意味が分からなかったけれどどうやら言葉通りの意味だったらしい。まさかスマホロトムを触っただけで壊してしまうような人間が実在して、しかもそれが幼馴染だとは思わなかったけれど。
幼馴染……シローは現在ジャスティスの会という組織を立ち上げてその組織の長として活動しているようだ。私がカロスを離れている間にミアレは様変わりしてしまったようで、街中に野生ポケモンが出現するようになったのだとか。人とポケモン双方の為に今はワイルドゾーンという区画を設けているけれど、その壁を撤廃することが目標だという。
言っていることは正直無茶苦茶だと思うが、思い出の場所がある日突然ワイルドゾーンになってしまったと嘆く住民を何度か見かけたのでシローの主張が一切理解できないわけでもない。とはいえ、シローの普段の活動は道場主のようなことが中心らしいので今のところは放っておいてもいいかと思い直す。
昔のシローは女子と見紛うほど細身の美形だったような気がする。ムクちゃんと歩いていると「仲の良い姉妹ね」なんて声をかけられていたくらいには。
それが何をどうすれば格闘家のような体格に成長するのか不思議でならない。アローラ地方にはキテルグマという危険なポケモンが生息していたが、あのポケモンと生身でやり合えるのでは、と思ってしまう。
「シロー、いくらなんでも強くなりすぎでしょ……色々な意味で……」
「いえ、自分はまだまだ道半ばだと思います」
本人も強いのに、ポケモン勝負も強いのだから納得できない気持ちにもなる。それだけシローが努力してきたということは分かるけれど。
アローラ地方でポケモンの育成をサボっていたわけでもないのに私のジジーロンはシローのタイレーツに呆気なく敗れた。相性が不利だったのもあるしメガシンカを使いこなせるシローとジジーロンがメガシンカすることをミアレに戻ってきてから知った私では対等な条件ではなかった気もするが負けは負けだ。
シローが(色々な意味で)強くなった理由は過去に敗北を喫することがあったからだと聞いている。相当悔しかったのか、それとも自分の未熟さを恥じたのか。
それでポケモンだけでなく自分まで鍛え上げてしまうのは——とここまで考えてもしかしたら敗北とはポケモン勝負のことではなくリアルな喧嘩の話だったのかもしれないと気付き、思考を放棄した。詳しいいきさつは聞いていないが相手は女性だったというしこればかりは流石にポケモン勝負の話であってほしい。
「自分が強くなろうと思ったのは過去に手酷く敗北したからというのもありますが……」
「うん?」
「そのときの敗北で弱いままでは何も守れないと気付いたのも大きいのです」
シローにもそういう感情はあるのだなぁ、なんてどこか失礼な感想が出そうになる。
昔は私もシローも誰かを守れるほど強くはなかったし、そんな発想も出てこないくらいだったが大人になれば立場も変わる。幼馴染の成長を感じてほんの少しだけ胸の奥がちくりと痛んだ。
「シローは大きくなったね」
「……? それは当たり前のことでは?」
「上手く言えないけど肉体的な面だけじゃなくて……。私はあの頃のままな気がする」
私の幼馴染はもうずっと遠くを走っているような気がして、それが寂しくもあり、頼もしくもある。