「アポロさま、只今帰還しました」
「おや、想定より早い帰還ですね」
ロケット団幹部のひとり、アポロさまの下に配属されたのはひと月ほど前のこと。私に与えられた任務はジョウト地方の各地で騒ぎを起こせ、という簡単なものだった。
決して戦力として数えられていないわけではない。私のような下っ端がくだらない騒ぎを起こすことでアポロさまをはじめとした幹部の皆さんが動きやすくなるのだ。
最近ではロケット団の活動をよく思わない正義感溢れた少年少女に計画を妨害されてしまうこともある。彼らの目を此方に向けさせることでアポロさまの本命の計画が邪魔されにくくするのが目的だ。
私は相棒のヨルノズクと共にまずはコガネシティへ飛び、通りすがりのトレーナーたちからポケモンを奪った。時にはポケモンのマッサージをしていると偽って、相棒ポケモンたちの疲れを癒やしたい心優しいトレーナーのポケモンを盗んだりもした。そうしてポケモン泥棒の噂を聞きつけてやってきた邪魔者と戦ってこっ酷く負けてしまった。最初から勝てるとは思っていなかったのでこれも作戦のうちだ。
「……時間稼ぎは十分出来たと思いますが」
「ええ、おまえにしては上出来です」
ロケット団ボス、サカキさまに戻ってきてもらう為に。その為にアポロさまは行動なさっている。
三年前、カントー地方で悪事を働いていたロケット団は一度解散した。たった一人の並外れた強さを持つ少年の手によって組織は壊滅し、サカキさまも行方をくらませてしまったらしい。
というのも当時の私はジョウト地方で平穏に暮らしていたのでロケット団のこともサカキさまのことも噂でしか知らないことだった。
そんな私がロケット団に入ることになったのはロケット団にスカウトされたからでしかない。犯罪組織に身を置くなんて絶対に嫌だったしどうにか逃げ出すつもりでいたのに、強引に連れてこられたアジトでアポロさまのお姿を拝見して気付けばロケット団の一員となっていた。
——呆れられてしまうかもしれないけれど、一目惚れだったのだ。アポロさまに初めてお会いしたとき、世界が輝いて見えたほど。
きっとアポロさまはサカキさまが戻ってきてくださることだけを望んでいて私の気持ちになんてちっとも気付いていらっしゃらないだろう。恐らくはただの部下の一人としか認識していない。だけどそれで十分だ。狂っていると思われようと私は勝手にアポロさまのことを慕っていて、報われることがないとしても私がアポロさまの為に何だってしたいと思っているだけなのだから。
「次の任務は追って指示します。いつでも出られるよう、準備しておきなさい」
「はっ」
「おまえがロケット団になったときは如何にも悪事に手を染めたこともなさそうな小娘に何が出来るのかとも思いましたが……」
アポロさまはちらりと私に視線を投げる。
「存外、役に立つようですね。尤も、おまえもおまえの相棒も性格的にはロケット団向きではありませんが」
最初の頃は人を騙すことにさえ抵抗があったことを思い出す。一生慣れることなどないのだろう、と思っていたけれど人間は案外環境に適応出来てしまうらしい。
組織の活動資金を得る為に偽物のヤドンのしっぽを高値で売り捌いているうちに人を騙すことに慣れてしまっていた。自分はもしかしたら犯罪者向きの性格なのかも——と思ったりもしたがアポロさまには鼻で笑われてしまった。
「ナマエ」
「はい」
「次も期待していますよ」
「ありがとうございます、アポロさま。必ずや期待に応えてみせます」
——アポロさまのお役に立てるのであれば、私は自分の選択に後悔などない。