首を振ってイエス
「おれ、おまえが好きだよ」
「え」
――なんでもないみたいな顔でフェリシアーノ君がそう言ったものだから、私は赤くなる顔をどうにかしようとするのに精一杯だった。フリーズしそうになる頭をフル回転させて、これはいつものフェリシアーノ君の天然が炸裂しているだけにちがいない、ちがいない、ちがいない、と呪文のように何度も何度も心の中で唱える。
「おれ、木と畳の匂いがするおまえの家が好きだ。色鮮やかなキモノとか、心のこもったオモテナシも好きだよ。それにサクラとかコウヨウとか、おいしい料理とか温泉とか、あとあと……」
そら見たことか!
私は律儀に指折り数えていくフェリシアーノ君の横で、ほっと胸を撫でおろした。
「それは私というか、『日本』が……菊さんが好きなんじゃないでしょうか?」
思いがけず、ほろにがいチョコレートを食べた時みたいな気持ちになる。安心するような、ちょっぴりそわそわするようなそんな感じ。言ってしまってからどうして律儀に返事をしてしまったのだろうと後悔した。フェリシアーノ君の紡ぐ言葉で私の心はいつだって簡単にかき乱されてしまう。わかってた。わかっていたのに。
――縁側であおむけに寝転がっていたフェリシアーノ君が急にごろりとこちらを向く。思わずに、息が止まった。
「違うよ、なまえだよ。俺はなまえが好きだ」
さっきまで庭の紅葉を映していた胡桃色が、きゅっとやさしく三日月形になる。
「――なまえがいる日本が好きなんだ。なまえといれるから、なまえに会えるからーー俺は、ここが好き。おまえは?」
どう返答したらいいかわからなくって、私はたたんでいた洗濯物をぽとりと落とした。フェリシアーノ君の紡ぐ言葉は、いとも簡単に私の心をかき乱してしまう。そんなふうに見つめられたら、何も言い返せなくなっちゃうじゃない。