02

「か、風影様…!なんで、ここに」

「…お前こそ、此処で何をしている」

「あ、…夕方までお帰りにはならないと聞いて、それまでに執務室を掃除しといてくれって…頼まれましたから、」


扉の前でしゃがんでいじけていると突然後ろから声がして、振り向くとまさかの風影様がいたもんだから、びっくりしすぎて尻餅をついた。
そのまま此処にいる理由を説明をすると、そうかと言いながら風影様は尻餅をついている私の前に片膝をつきしゃがんだ。

なに!ち、近い近い…!ちょっと心臓が!もたないよコレェ!
立たなきゃ、立って今すぐ此処から離れなきゃ!震えてる私の足よしっかりしてくれえええええ!


「驚かせてすまなかった。立てるか」

「え、や、あ…と、」

「…?」


足にこっそり、心の中でうおおおおお!と叫びながら力を入れてみるがどうにも震えて言うことを聞いてくれない。
とりあえず心と足が落ち着くまで一瞬でもいいから、話を変えて時間を稼ごう…!
とは言ったものの何を話せばいいのか考えあぐねていると、風影様に、ジ、と見られていることに気づいてあからさまに視線を逸らしてしまった。ごめん風影様、でも今はそんなに見ないで…!


「どうした」

「…えと、あ!あの、か、風影様は、夕方までいらっしゃらないはずじゃ、…そ、掃除はどうしましょうか」

「ああ、少し出るはずだったんだが予定が変わってな、戻ってきたんだ。俺は此処で公務の続きをするが、掃除はしてくれて構わない。邪魔なら出て行くが」

「じゃ、邪魔だなんて、そんな事…風影様のご迷惑でなければ、手早く掃除させていただきます、!」


喋っている最中に一瞬、立てそうな気がしたので、最後の一言を言いながら勢いに任せてスクッ、と立ち上がり私の隣に落ちていた掃除用具を拾って風影様から離れた。
ふう助かった、あとちょっとでもあんな麗しい瞳に見られていたら動悸がいきすぎて死んでたよ、危ない危ない。


「じ、じゃあササっと掃除、してしまいますね、!あ、丁寧にはしますので!」

「ああ、頼む」


なるべく静かに、歩くときはそーっとを心がけて、机に就き書類を見だした風影様の邪魔にならないように掃除を開始。
掃除っていってもいつも綺麗なこの執務室でやることといえば、積み上げられた巻物だったり本だったりをちょっと整頓したり、本棚を拭いたり、そんなもんだ。

棚を拭きながら、一言も喋らずに公務に専念している風影様をチラリと見てみれば相変わらず素敵で。
書類に何かを書く仕草も、普通の人がやってると別になんてことないのにそれが風影様だと美しく見えるのは何故なんだ。


「…なんだ」

「へ?!、あ、あ〜、…いえ、なんでもない、です。失礼しました、」


見惚れすぎてて、気づいたら風影様がこっちを見ながら声をかけてこられ、焦りすぎて変な声が出てしまった。
慌てて謝罪するも風影様は何も言わずフと笑うもんだから、一気に顔に熱が集中した気がした。
…ああ、一年前に見た笑顔と同じ、この笑顔が私にだけ向けられるならどんなに幸せか、
て、ダメダメ何考えてんだ、大名の娘でもなければ忍でもない、ただの一般人がこうしてお話できるだけでも感謝しないと。


「…お前、名は」

「え、あ、えっと、名前です。…名字、名前。」

「…そうか。ようやく名が聞けた」

「、え?」


ようやく?ようやくって、あ、そうか私風影様にちゃんと挨拶したことなかったっけ。うわめっちゃ失礼じゃんなんか。
名乗ってからそんな事を考えて、すみませんと謝ろうとしたところで、風影様が立ち上がり私の方へと近づいてきた。


「…名前、お前は俺の事をどう思う」

「っえ?!ど、どう、って」


一歩、一歩とこちらに来て、ついに私の目の前まで来た風影様。私より背が高くて必然的に見上げると無表情で見下ろして来ていた。

どうって、個人的な意見ってこと、?なんでそんな事聞くの?え、なんなの?


「俺は里をちゃんと守れているか、お前はどう思う」


…あ、そういう事ですか。先に言ってよそれを。びっくりしたじゃん。
でもそんな事私に聞かれても、どう答えたらいいのか分からないような。

第四次忍界大戦が終わった今でも、平凡に、普通に生活できてるって事は、それは風影様がちゃんと里を守れてるって事じゃないの?
私はそう思うし、幸せだけどな。


「私たち一般人の生活は…風影様とか、忍の人が居てこその生活だと…私は思います。風影様が里を守れていないのであれば、私たちは普通の生活を送れていないかもしれないし…、うーん、あ、でも私は幸せだと思ってます!…って答えになってないですね、すみません」

「…いや、いいんだ。変な事を聞いてすまなかったな」

「、いえ…」

「それにしても、…幸せ、か。良かった」


目の前に立っていた風影様は少し横にずれて、私の横に移動し本棚にもたれて腕を組んだ。
私たちが幸せに暮らせるように、って願って毎日頑張ってくれてるんだなあ、この人は。
良かった、と言った風影様の表情は、表面はほとんど無表情だけど嬉しそう。


「もう一つ、いいか」

「、?」

「お前は、俺自身をどう思う」