02
私達は風影邸からさほど遠くない場所にある小料理屋に出向き、風影様に私の悩みを相談するという、なんともありがた迷惑な食事会を開いている。
どんと来いな態度に私は、最近同期の女子達がお母さんになって行く姿に羨ましさが出てきて困っていると適当に言う。まあ半分本当で半分嘘なんだが、風影様が好きなんですなんて死んでも言えないからこう言うしか無かった。ごめん風影様。
「お前程なら相手はいくらでもいる様に思うが?」
「い、いませんよ!そもそも出会いってものがありませんから」
「……そうなのか」
なんかガッカリしただろうか、せっかく部下の悩みならきかない訳にはいかないとか言って連れてきたと思ったら結婚云々の悩みだなんて、真面目に仕事しろよとか思ったかな、ああ、イメージダウンすぎでしょこれは。
「……俺が、悪いのかもしれないな」
不意にぽつりと呟いた風影様に、疑問を抱いた。
なんで風影様が悪いのか、言ってる意味が分からなすぎて、少し笑いながら「いやいや、なんでそうなるんですか」と言うと、どうやら風影の側近だから殆ど出会いというものが無いんだろうと思ったらしい。なるほど。
「ああ、いや……まあ、そう言われればそうですけど、でも私はそんな風には思ってませんので、風影様の所為では無いですよ」
「そうか」
「ははっ、すみませんこんな悩み、これからはしっかり仕事しますね」
「俺は、どうすればいい?」
いや何もしなくてもいいんですけど、強いて言えばもうこの話を終わらせて目の前の美味しそうなご飯にありつきたいんですけど。
どうすればいいって言われても、そんなの、私がもし側近から外れたとしてもいい出会いがあるかは分からないし、今のままで全然何も文句は無いんですよ?と説き伏せるように言ってみる。
だいたい、側近から外れたりなんかしたらそれこそ嫌だ。私は結婚とかそういうので悩みがあるっちゃあるけど、一番の悩みは風影様を好きになってしまった事であるからして……
「……離れた方がいいの、かな」
「それでお前は女の幸せを掴める、かもしれない、か?」
思わず出ていた心の声に対して風影様にそう返され、離れた方が私は風影様を忘れる事ができるかもしれないし、風影様にとってもしょうもない悩みで仕事が滞る様な奴を置いておくよりはもっと優秀な忍を側近に置いた方が何かと都合が良いのでは、と思いながら呟くように「そうかもしれませんね」と言う。
「……すまないが、それはできない」
「え?あ、そうですよね、私の我儘で急に担当が変わるなんて、難しいですもんね」
「いや、そうではない」
何がそうではないのか、よく分からないが担当を変える云々で、それはできないという一言に私は心の奥で安堵していてあまり気にしていなかったが、次に風影様が言った事にまた頭を抱える事になる。
「俺が、お前には側に居て欲しいと思っているからだ」
は?
「俺が、あまり他の男共と関わり合わないよう、お前を側近に指名した。お前の言う出会いが無いのは、俺の所為だ。俺の所為でお前を悩ませる事になるとは、すまない」
え?
「先程は異動できないと言ったが、お前が嫌なら、担当上忍として下忍達を指導してもらう場へ異動もできる。俺の勝手な感情で、お前を閉じ込めるような事をして、すまなかった」
あの、話にちょっとついていけないんですけど
勝手な感情でお前を閉じ込め……って、え?なに?何がどういう?
「えっと、話がよく分からないんですが……つまりどういう、」
「俺はお前に特別な感情を抱いている」
「そ、それっ、て、つまり」
もうこれフラグじゃね?!と動揺を隠しきれず、でも確信的な言葉を聞いていないので頭が混乱しきっている私は持っていた箸を落とし更にあたふたとしてしまう。
「俺は、名前、お前が好きだ」
慌てふためいている私をよそに、真っ直ぐこちらを見てサラリと言う風影様。
いやいやいやいや、今とんでもない事言ったよね、風影様。自分が何言ってるか分かってる?私はいち風影様の秘書でありただの上忍。身分不相応すぎる事分かってる?
ていうか自分の好きな女に他の奴との出会いがあるように異動云々言っておいて最後に爆弾投下してくるその勇気に乾杯なんだけど。
恋愛の駆け引きもくそもあったもんじゃないよね。
あ、そういう素直で無知っぽい所に惹かれたんだっけ私。
か、風影様がこんなペーペーみたいな私を好きなんて、夢だ。絶対。
「夢だ、ドリームだよ」
「夢ではない」
「あ、いや、言葉のあやみたいなものですから、現実なのは分かってますけど、でも、あの」
「俺からこんな風に言われて、今の側近を続ける気にはならないだろう、辞めてもいい」
「な、」
そんなの、ズルくないですか。風影の力で私を閉じ込めるような事するくらい私の事好きだったって事じゃないの?私が拒否したらそれで諦めるの?そんなもの?
って、私も同じようなもんか、ただ側にいれるだけで良いなんて思ってた私が、今の風影様にとやかく言う権利なんかない。だけど、そこまで言ったんならもっと押してきてもいいんじゃないか。
「もっと、」
「なんだ」
「もっと、強引になってもいいんじゃないでしょうか、今まで私に他の男が寄り付かないように閉じ込めるような真似して、す、好きだって言うだけ言って急に手のひら返したみたいに諦めようとして……わ、私の気持ち聞いてから諦めてくださいよ……!」
「……お前は」
「す、好きなんです!私風影様の事!悩んでたのだって、私なんかが風影様を好きになっていいのかって悩んでただけで、」
なんなんだよ、風影様に側近辞めろって言われたら只の上忍の私には拒否権なんてないじゃない。自分だけ言いたい事言いやがって……!
今日はそそくさと帰ってふて寝でもしてやる!
私も好きって言ったしもうスッキリした!もういい!
泣きそうになる気持ちを抑えてズバズバと言いたい事を言った私に少し驚いた表情を見せた風影様だったが、突然立ち上がり「来い」と一言残して私たちが居た個室から出て行ってしまった。
……なんか、怒らせちゃったかな、と思いつつ命令じみた来いの一言に私は無視する事ができず後を追うように個室を出た。