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カンクロウ君に別れを颯爽と告げ、後から追いついてきたシカダイ君も交え、栄えている木の葉の街を歩く。
前にボルト君とシカダイ君が並んで歩いていて、ああ可愛い、食べちゃいたいとか思いつつ、本当に仲良しなんだなあと微笑ましく思っていると、ふいにボルト君が後ろを振り向いてきた。
「名前さん、だっけ?中忍試験の時も見かけたけど、どっから来たんだ?」
「んん?あれ、知らなかったっけ」
「おいボルト、あんまり失礼な態度取るんじゃねーよ。我愛羅おじちゃんの嫁さんだぜ?」
嫁さん…とは、シカダイ君は本当に十代そこらの子供なんだろうか。顔もさる事ながら口調までもシカマル君に似ている。
ボルト君はそれを聞いて、マジ?!と顔をキラキラと、一体何がそんなに嬉しいのか、とてつもない笑顔を向けてきている。
そんな可愛い顔して、今すぐ抱きしめられたいのかな?
「我愛羅のおっちゃんの嫁って事は、…あれ?じゃあシンキの母ちゃん?でもシンキは養子って、なんで養子なんだってばさ」
「おお、鋭いねボルト君。私が我愛羅君と結婚する前にシンキ君はもう養子として迎えられてたよ。ていうか結婚したの、ついこの間だから」
「…へえ〜、なんか複雑だな」
「おいボルト、礼儀良くしとけよ」
容赦なくタメ口で、まるで友達と喋るように私に話かけるボルト君を、そろそろいい加減にしとけと制止をかけるシカダイ君。
そんな事、気にしなくていいのに。
大体シカダイ君は我愛羅君の事、我愛羅おじちゃんって呼んでタメ口だったと思うのだが。
私だってもう身内になった訳だし、敬語も何もいらない。
というか普通に話してくれる方が私的には嬉しいのだ。
「良いの良いの。タメ口バッチコイ。友達みたいに話してよ。あ、そうだ二人共、友達になってください」
「…は?友達?」
「うん、友達。私よく考えると友達一人も居なくてさ」
なんて寂しい子。とか思われただろうか。一人も居ないと言った瞬間、なんとなく二人の表情が沈んだ気がした。
きっとシカダイ君はなんで友達が居ないのか、察してくれているだろう。以前に私は別の世界から来たって話たし。
別に、今更悲しい訳じゃないんだけど、この二人とか、我愛羅君とナルト君とかみたいな、幼馴染だったり昔からの腐れ縁だったりの関係性のある人物が、よくよく考えるとこの世界には一人も居なくて。
我愛羅君は友達とかそういうんじゃないし。
でも我愛羅君だって、カンクロウ君だって、シンキ君だって、今となっては話し相手になってくれる人は沢山いるけど、やっぱり昔からの友人っていうのは良いなあと、二人を見て、改めて思った。
ふざけたり、喧嘩したり、相談したり。
社会人になってからはなかなか会う事も出来なくなったが、突然電話して長い時間喋ったり、彼氏ができたら一番に報告したり。
この世界で一人になるまで意識した事は無かったけど、そんな友達が居るっていうのはやっぱり良いものだと、居なくなって初めて気づく。
みんな元気にしているんだろうか。
「別に友達になるのは良いってばさ。でもよ、一人くらいはいるだろ?腐れ縁っていうか、小せえ頃からの知り合いとか。一人も居ないって事、……」
「…おい、ボルト、っ」
「あはは、まあ色々あってね〜。確かに居たっちゃ居たんだけど、もう会えないから。……あ、悲しくなってきた。二人共、慰めてくれ」
ボルト君の探究心をくすぐってしまったのか、少し困り顔で聞いてくる様子にシカダイ君が止めに入る。
私が別世界の人だという事は他言無用と言ったから、ボルト君に理由を話す事もなく止めてくれているんだろう。
賢くて、優しくて、良い子だなあと思う反面、なんだか重い荷物を持たせている気分で申し訳なくなった。
ここで私が泣き言を言っても、場の空気が落ちてしまうと、とりとめ笑顔で明るく、冗談混じりに場を収めようとすると、
ボルト君が途端に声を張り上げた。
「まあ理由は知らねえけど、友達1号として慰めてやるってばさ!行こうぜ!名前、シカダイ!」
「お、おい!行くってどこにだよ!」
「友達らしい事するんだってばさ〜!」
質問の答えになってない…と走り出したボルト君の背中をただ立ち尽くして見ていると、横からシカダイ君が、なあ、と声をかけてくる。
「その、名前さんの世界にいる友達みたいになれるかどうかは分からねえけど、ボルトはいい奴だぜ。友達を置いて走って行っちまうような奴だけど」
「…うん、ボルト君もシカダイ君も、凄く良い子だと思ってるよ。……ああ本当に、賢いし可愛いし優しいし、激萌えなんだが。なんだこの世界は。私を萌え死にさせたいのかな、萌えがそこら中に転がってて対処できないよ頭の中がピンクだよ」
「え、あ、名前さん…?」
気にしない気にしないと思っても、一度考えてしまうと少しばかり感情的になってしまうのは悪い癖。
それでもシカダイ君だったりボルト君は私を励まそうとしてくれている事にジワジワ喜びが溢れてきて、それを萌えに変換できるのは良い癖。だと思う。
良く言えば切り替えの早い、悪く言えば情緒不安定みたいな。
ブツブツと俯きながら呟く私を不審に思ったのか、顔の前で手をヒラヒラとさせて来たシカダイ君の腕を掴んで顔を勢いよく上げた。
「ありがとう!萌えを提供してくれたお陰で気持ちが復活したよ!」
「な、も、萌え?良く分かんねえけど…まあ、行くか」
私より少しだけ低い身長、少しだけ小さい手、それなのに大きな心を持っているシカダイ君とボルト君に感謝を称えつつ、遠くの方に小さく見えるボルト君のところまで走る。
折角友達と言ってくれたんだ。
ボルト君にもいつか、私の事を話せる時が来るといいな。