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「風影様ー!」

「おめでとうございます!」


わああああ!という歓声の中、私達二人は風影邸の前に集まる里の住人達に、着物姿をお披露目。
やっぱり袴を着た我愛羅君はかっこよくて、その姿に緊張していたけど、集まってくれている里の人たちの多さに驚き、緊張が更に高まった。
人多過ぎ。やっぱり我愛羅君って愛されてるんだなあ。

おめでとうございますとか、そういう祝いの言葉に混じって、やはりというか、あの人誰?大名様の娘には見えないけど?などの疑問の声もチラホラ。
聞こえないように言っているのか、はたまたわざと聞こえるように言っているのかは知らないが、そんなもの私には効果は無いんだよはっはっは。そして只の一般人さ。

そんな事を思っている折、我愛羅君が静かに喋りだすと、歓声も止み、みんなが我愛羅君の話を聞く姿勢になる。風影すげえ。


「皆、わざわざ足を運んでもらい感謝する。……皆には今日まで黙っていたが、俺達は少し前から夫婦となった。そしてその時から俺にとって守るべき存在が一人増えた。俺は妻を愛している。が、里も俺にとっては守るべき存在であり、愛すべき、家族と言える存在だ。…長い間、俺が風影としてやってこれたのも里の皆が支えてくれたお陰だと考えている。これからもどうか俺と、そして妻も、よろしく頼む」


喋り終わった瞬間、辺りが一度静まり返り、その直後に歓声が再び巻き起こった。
みんなが笑顔で、素直な気持ちで祝っているのが見てとれる。

我愛羅君って本当凄いなあと、自然に笑顔になりながら、まるで他人事の様に思っていると、次はお前の番だと我愛羅君に言われ、身体がピシィと音を立てて固まった。

いやいやいや、さっきの演説の次に私が喋れと?この大歓声の前で?無理なんですけど。普通に考えて無理だよね?風影さまあ〜!ってなってるこの雰囲気で喋れとか鬼ですか?あ、鬼でしたね。

そもそも一体何を喋ればいいのか。
不束者ですがよろしくお願いします…は違う気がするし、
頑張ります…も違うかな……。
ああ〜誰か私に何か定型文をくださいいいいい


「名前、」

「は、はい!、え、えっと」


なかなか喋り出さない私に催促をしてきた我愛羅君の声に、少し大きめの返事をしてしまった事で辺りがまた静まり返る。

もうこれは喋るしかない……と思った時、よく知った声が私の耳に届いた。


「名前ちゃんー!あなた風影様の奥さんだったのね〜!驚いたわ!おめでとう!」

「え!八百屋のおばちゃん!」


声のした方へと視線を向けると、大勢の人の間から大きく手を振っている女の人がいて。
いつも買い物へ行く八百屋のおばちゃんだった。

おばちゃんの顔を見た瞬間、緊張の糸が解れた気がして私も手を振り返す。
すると他からもチラホラと、よく見れば名前ちゃんじゃねえか!綺麗な格好してるから見違えたよなどの声が聞こえて、そちらもよくよく見ればお肉屋さんだったりお花屋さんだったり、私がよく買い物へ行くお店の人たちが大勢いて、徐々に静かだった場が祝いの言葉で溢れてくる。

その祝いの言葉は、確実に私に向けられているもので、どんどん派生し大きくなっていくおめでとうの言葉に嬉し涙が出てそうになる。

私も何か言わなきゃ。

何を言えばいいのか、さっきまで混乱していた私はもう居なくて、素直に思った事を言おうと、息を深く吸ってから口を開いた。


「あの皆さん!いつもありがとうございます!私、もっと皆さんと仲良くなりたいです!我愛羅君が里の皆さんを家族と言ったように、私もその家族の輪に入りたいです!よろしくお願いします!」


勢い良く、渾身の大きい声で、今思った事を口にした。
その途端、我愛羅君が喋った後と同じように歓声が上がり、その中からは、もう家族だろー!とか、こちらこそ仲良くしてねー!とか、暖かい言葉も聞こえてきて、やっぱりこの里は凄く良い里だと感じた。



それからまた少し、我愛羅君が話をしてから私達二人は里の人たちと別れ、祝言を挙げるべく風影邸に戻る。

親しい人達や我愛羅君を慕っている砂隠れの忍の人達が待つ大広間まで、着付けをしてくれた人のサポートを受けながら足を運んで、いよいよ今からが祝言本番なんだと、さっきまで解れていた緊張がまた高まってきた。


「…名前、お前の両親にも先程の演説、聞いてもらいかった」

「え、やだよ恥ずかしい。それにあの演説をもしお母さんが聞いてたら怒られてたよ多分。里の長の嫁なんだからもっとピシっと決めなさいよってね」

「…そうか。俺はお前らしくて良いと思ったが」

「普段からピシッとしてないみたいな言い方しないでよ」


着付けを施してくれた人に着物の裾を持ってもらいながら長い廊下を歩く途中、我愛羅君と何気ない会話をして笑い合う。
我愛羅君は不思議な人だ。
少し喋っただけなのに、ほんのついさっきまで今から本番なんだと緊張に飲み込まれそうになっていた私の心はもう落ち着いている。
なんでそんなに余裕なんだと疑問に思うのもあるが、その余裕があるからこそ、私を落ち着かせる事ができるんだろう。
やっぱ凄いや。

他愛も無い会話を、もはや着物の裾を持ってくれている人達をも巻き込んでしていると、
廊下の先にある扉の前に正装をした男性二人が、こちらですと声をかけてきた。


「風影様、名前様、おめでとうございます」

「我々は風影様の事をとても尊敬しています。名前様も偶にお会いする程でしたが、…我々には分かります、お二人ならこれから先ずっと、幸せであると」


扉の目の前まで来た途端、正装をした人が頭を下げつつ、静かに祝いの言葉を言ってきてくれる。

なんだか聞いた事のある声だなと思い、誰だっけ?と記憶を辿っていたが、二人が頭を上げ顔を確認した途端、あー!と思わず声が出てしまった。


「お二人とも!正装してて分からなかったです!わ〜…!お二人にも祝ってもらえて嬉しい〜!」

「名前、この二人を知っているのか」

「知ってるもなにも、二人が我愛羅君に任務の報告した後とかよく話してたよ。言ってなかったっけ?」


突然の再開に、思わず顔が綻ぶ。
この二人の忍はいつも揃って我愛羅君に報告をしに来ていて、最初こそ挨拶程度だったのが段々と仲良くなった。
二人共、結婚もしてて子供もいるらしく、報告後の少しの時間だが、よく子供の話を聞いては楽しい時間を過ごしていた。

最近は全然タイミングが合わなくて、見かけなかったから今日会えて凄く嬉しい。


「いつも名前が世話になっていた様だ。ありがとう」

「いえ!名前様もとても気さくな方で、いつも話し込んでしまうのはこちらでしたから、」

「そうですよ!名前様とお話すると元気がでるというか…、世話になったのは我々の方ですから……本当に、お二人がご夫婦になられて、心から嬉しく思っています」


なんという良い人ぶりなんだろうか。
元気が出るなんて、そんな風に思ってくれていたとは知らなくて、思わずお礼を述べる。

またお話し聞かせてくださいねと言うと、勿論です!と二人揃って返事をくれた。良いコンビだな。


「風影様、名前様、お二人とまだまだお話ししたい気持ちは山々ですが、そろそろお時間です」

「中で皆様がお待ちです。さあ、お入りください」


会話に区切りをつけて、二人の忍は観音開きの扉に両端から手をかける。
まるで双子のような二人の、おめでとうございますが重なって、それと同時に扉が開けられる。

開いた瞬間、大きな拍手と歓声に包まれて、私達二人はみんなが待つ大広間へと足を踏み入れた。