03
「さ!レッツゴー!」
「…」
「ゴー!」
晴天。雲ひとつない晴天。旅行日和。
……あれ、なんかデジャビュ。
久しぶりの実家訪問に、じわじわとテンションが上がってきている私は、家を出て、清清しい青空を見上げると同時に拳をあげた。
それに対して何も言わない我愛羅君に、昔少年我愛羅君と一緒に旅行へいく前のあの感じを思い出すが、あの時と違うのは、我愛羅君が大人な事、それと少し私を見ながら微笑んでいるという事だ。
「まだまだ暑いのに、帽子かぶってもらってごめんね」
「この位の暑さなど、問題ない」
「あ、そっか、砂漠に住んでんだもんね」
そりゃ暑いの慣れてるかあ。それなら大丈夫かな。
最近は昼間こそ暑さを感じるものの、朝と夜は少し冷え込む。
寒暖差が激しい夏の終わりは一体何を着ればいいのか分からなくて、私は嫌いだ。
今は朝だから、割と涼しく、風もほんのり冷たいので気持ちは良いが、お昼のなると途端に暑くなるんだろう、どうせ。
まあ、お昼は新幹線の中だろうし、今日の私には関係ないけどね!
「我愛羅君、こっち!」
「ああ」
他愛のない会話をしながら、家から徒歩数分の最寄駅へ、そこから新幹線が発着する大きな駅まで来ると、流石朝の時間というだけあって人が多いのなんの。
逸れないようにしないと、と思い、後ろからついてきているであろう我愛羅君を振り返れば突然手を掴まれる。
「あ、」
「こうしていれば、はぐれない」
「そ、ですね、」
キュッと繋がれた手を見れば顔が暑くなる感覚。え、なんか私超ウブキャラに変貌してるんですけど。
あまり意識してはだめだと、行こうと一言声をかけつつ我愛羅君の手を引っ張るように早足で歩き、昨日ネットで予約していた指定席の切符を無事に購入し、それから一応お土産と、新幹線内で食べようと買った軽い食べ物を持って目的のホームまで足を運んだ。
……
「ふう〜、」
「こんなに多くの人達は一体どこへ向かっているんだ」
新幹線に乗り込み、やっと指定された席へと腰を落ち着かせると、我愛羅君がボソリと呟いた。
確かにこんなに多くの人がごった返しているのを見るのは初めてかもしれないなと、新幹線事情を話して見ることにした。
「今日は土曜日だからね、大半の人が今日と明日お休みだから、皆家族とか友達同士で遠出したりするんじゃないかな。でも仕事の人もいるだろうから……あ、ああいうスーツ着た人なんかは仕事で出張だったりするかもね」
日本随一の都会である街にあるこの駅は、平日と言えど人は多いが、休日は何かのお祭りでもあるんじゃないかというほどの人でごった返している。
そんな中で丁度スーツに身をまとっている人を見つけ、我愛羅君に耳打ちをして見ると、スーツ?と、素っ頓狂な返事が返って来たので、仕事する人の正装の事かな、と説明。
「そうか、お前が休みに現を抜かしている間も、身を粉にして働いている奴がいるという訳だな」
「う、うん…そうだけど、…え、なんか悪口言われてる気がするけど気のせい?」
あれ、なんか少年の時より辛口になってない?大丈夫?
そんな事を考えながら多少辛口になっている我愛羅君に苦笑いを向けると、冗談だと微笑まれた。
…反則すぎ。
そんな我愛羅君の反則的スマイルに内心やられている私をよそに、新幹線は発車の合図と共に動き出した。
そこからは猛スピードで流れていく景色を窓際に座る我愛羅君はずっと眺めていて、気になったものがあると私に質問してくるという時間がしばらく続いたのだが、
その間にも私は少しそわそわしていて。
なんでかと言われれば、そう、我愛羅君に日本で一番高くて美しい山、富士山を見て欲しかったからである。
今日は天気もいいし、絶対この新幹線からでも見えるはず。
別に山が好きというわけではないんだけど、日本に来たら確実に見ておいて欲しい観光スポットだし、山好きでない人でも、見れば心が洗われる感覚に陥る富士山は、本当に格別だと思う。私も久しぶりに見るから楽しみだ。
そんな事を考えていると、不意に後ろの座席から小さな女の子の「きゃ〜!富士山だ〜!」とはしゃぐ声が聞こえ、ハッとした。
「は、!が、我愛羅君!外!山!あれ!見て!」
自分の膝あたりを見つめていた視線を一転、我愛羅君の方へ向けながら外を見るように促すが、すでに我愛羅君は外を見つめていて、私と同じように後ろの少女の声が聞こえていたのか、「あれが富士山という山か?」と、窓の外を見つめたまま聞いて来た。
「そ、そうだよ。私も久しぶりに見たけど、やっぱり綺麗」
「…確かに美しいな」
近くを流れる景色とは違って、遠くに存在している富士山は、割とゆっくり窓の外を流れていく。
その様を二人で眺めていると、美しく、凛とした佇まいの富士山は後方へと姿を消した。
「我愛羅君に見てもらえて良かった。私富士山結構好きなんだよね」
「あの山は何か特別なものなのか」
「日本人にとっては特別かな〜。この国のシンボルみたいなものだし」
「そうか」
いつも新幹線から眺めるだけで、きちんと見たことは無い富士山。
日本で一番高い山だとか、芸術作品にもたくさんモチーフにされてたりとか、日本の心だとか。
そんな私の富士山談義を、優しい表情で聞いてくれる我愛羅君にハッとして、つい熱くなっちゃったと謝ると、いつか一緒に見に行こうと言われ、心臓が跳ねた。
「…そう、だね。いつか、…ね」
我愛羅君が優しく微笑むから、その所為で心臓が音を立てたのとは、多分違う。
そんな約束、果たせるわけも無いと、内心思ってしまったが故の音だった。
できればそんな事思いたく無いと考えてしまうのは、妙に悲しくなってしまうこの気持ちはなんだ。
少年の時に突然現れて、そして突然いなくなって、かと思ったら大人の姿でまた現れて。
私の心の中で渦を巻く、もう離れたく無いと思うこの感情は、漫画の中の、いちキャラクターへの感情とは何かが違う。
それに私はとっくに気づいている。
だけどこれはいらない感情。
持ったところで誰も幸せにはなれない。
そんな自分の感情を消すように、再度窓の外を眺めている我愛羅君に気づかれないよう、小さく首を横に振った。