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あれ、我愛羅君、なんでその格好してんの。だめだよその格好で外なんて出たら。不審者かコスプレみたいだよ、着替えてね。
ねえちょっと、どこ行くのよ、だからダメだってその格好で外でちゃ、があら…く、
お前も俺を裏切るんだな
いつまででも居てくれていいと言ったのに
結局お前もいなくなるんだ
いや、お前は最初から俺に嘘を…、
「、ちょっと!待って、よ?」
…あ、ゆ、夢?
ガバリと音を立てて、まるで漫画みたいに起き上がった私の身体は汗びっしょりで、喉がヒューヒューなるくらいに渇ききっていた。
とりあえずお水、とベッドから立ち上がり昨夜のお酒が残っているのであろう胃の辺りを触りながら蛇口をひねれば持っていたコップに水が注がれていく。
「あー、そんなに飲んでないと思ったけど少し二日酔いかな、これは」
冷たい水を一気に飲みながら何か忘れている事に気付き、飲みかけのコップを乱暴に置いてからベッドがある部屋へと戻ったが、ついさっきまで忘れていた対象が居ない。
トイレも、お風呂も、とにかく家中、人が入りこめそうな場所を、探してみるもその対象はいない。
まさか、まさか元の世界に戻った?そんな急に?
いやいやでも戻るってもなんの手がかりも無かったし
「そうだ、服!」
こっちの世界に来てからは、もともと着ていた服は一切着せずにクローゼットにしまっていたから突然戻ったならまだ残ってるはずと思い、ガサガサとクローゼットを漁るが、入れてあったはずの服が無い。瓢箪を担ぐ為の紐みたいな物も、額当ても、全部ここにしまったはずだ。
「なんにも、無くなって、る」
え、なんで?なにがどうなってるの?確かに昨日まではいたはずなんだ、酔っ払って帰ってきて、電気も点けずにベッドにもたれかかって、私が買った部屋着を着て座ってた。
昨日まであったはずの痕跡が、何一つ無くなっている。
まさか、今までの事って…
「夢オチ…?とか?」
私、頭おかしくなっちゃったのかな、夢を現実と思っちゃうなんて。
それとも本当に我愛羅君は居た…?
頭がこんがらがっている状態だが今日は平日、昨日部長にあんな事言われた次の日に休んだりする訳にはいかない。なんか部長に悪いし、と頭を切り替え出勤する準備をするが、やはりどうも考えてしまう。
「ここまで痕跡がなくなってると夢だと思うしかないよ、ね」
もともと有り得ない事が起こったんだ。漫画の世界の人物が現実にいるなんて。よく考えれば漫画の中ではあんなに凶暴だった我愛羅君が、目があったら真っ先に殺されてもおかしくない私みたいな奴の言うことを大人しく聞いていたなんて、完全なご都合主義。私の夢だったからこそ叶っていた事なのかもしれない。
「そうだよ、あ、もしかして部長にあんな事言われたのも夢だったりして」
それは会社に行けば分かるか、と社畜体質の私は準備を終えいつも通り会社へ行く。
それにしてもよくできた夢だったなあ、なんて、もう私の中では夢だったという結論を出し、普通の、いつも通りのなんの変哲も無い社会人へ戻った。