11

お腹が減りに減っていた私はがっつくように出された夕食を平らげ、目の前の皿たちはあっという間に空になった。
美味すぎた。ほぼ丸一日何も食べていない状態だったのもあるだろうが美味すぎた。
急遽だったにも関わらずこれほどまでの食事を用意してくれた旅館側に心でお礼を告げながらご馳走様でしたと口に出す。
我愛羅君も同じくらいのタイミングで食べ終わったようだ。


「ほんっとに美味しかった〜!毎日でもこんな食事したいよ〜」

「…俺はお前が作った料理の方が毎日でも食べたいがな」




………ん?
ちょっと待て、

い、今プロポーズみたいな言葉が聞こえましたけど…!
毎日俺の為に味噌汁を作ってくれみたいな?!
毎日俺のパンツを洗ってくれみたいな?!

いやいや……いやいや!!違う違う違う、ただ私が昔作った料理が美味しかったって言いたいだけだよね?!そうだよね?!
あ〜〜危ない、
もう、言葉足らずなんだから〜!そんな言葉足らずだと世の中の風影ファンが勘違いしちゃうかね?!変な女に引っかかっちゃうからね?!許しませんからね?!!



「はははは、そ、そんな美味しかったかな?私の料理は。褒め上手な我愛羅君には毎日でも作ってあげるよははははは」


うんうん、そうだそうだ、これからしばらくお世話になる訳だしね?一緒に住むかどうかはまだ知らないけど、もし別の家を用意してもらったとしても世話になる事に変わりはない訳だしお礼として出張シェフでもしてあげようではないか。


「…いいのか」

「う、うん、いいよ?住むとこ提供してくれるんだしお礼としてご飯作るよ」

「…………そうか」

「失礼いたします、お食事はお済みになりましたでしょうか」


コンコン、とノックの音が鳴り、御膳を下げに参りましたと女将がやってきた。
美味しかった、ご馳走様でしたと告げるとニッコリ微笑み、お口に合ったようで良かったと言われ、女将の後ろにいた何人かのスタッフと共にテーブルにある空のお皿達を綺麗に片付け、何かご用があればお呼びくださいませ。と綺麗な佇まいで出て行った。


「女将さんは所作が美しすぎるね、流石だなあ」

「………。そうだ名前、これを覚えているか」

「ん?何?、……ああー!それ!」


女将さん美しいなあ、なんて思いながらお茶を飲んでいると、我愛羅君がゴソゴソと自分のポケットから何やら取り出してきて。
見せられたのは私が我愛羅君に買ってあげたクマのぬいぐるみのキーホルダー。
今でも持っててくれたんだあ。なんか感激。
ていうか我愛羅君が持ってたんだ。


「こちらへ戻ってきた時、お前から貰った物も全て一緒に来ていた」

「え、あ、だから私が買った服もなにも無かったんだ」


我愛羅君がいなくなったあの日、もともと我愛羅君が着て来てた忍の服が無くなっていて、私が我愛羅君用として買った服たちも一緒に無くなっている事に気付いたのは後々のことだった。
だから私は夢だったと思ったんだ。サブ携帯の事は完全に忘れてたけど。


「あの日お前が深夜に帰ってきて、自分が居なくなったらどうすると聞いてきた時俺は、やはり俺の事が邪魔になったのかと…先程も言ったが裏切られた気になり、離れて行くくらいなら、とお前を殺そうとした。」

「え?!」

「お前は眠っていたから気付かなかったかもしれないが、俺は砂を部屋中に舞い上がらせたんだ。その時あの本が入っていた棚が開いて、…俺は本を見たんだ。それが余計俺の動揺を誘い、お前の事を嘘つきだと、裏切り者だと決めつけ、殺す、そう思ったんだ。」


「……私の寝てる間に、そんな事、全然気付かなかった、…でも私生きてるよ」


「ああ、すんでの所で、酷い頭痛に襲われ気づいたらこちらに戻っていた。お前に貰った物と一緒にな。瓢箪のコルクだけ残っていたのには驚いたが」


…私が部長について行くか行かないかとかで我愛羅君に居なくなったらどうする?なんて聞いてしまったが為にそんな動揺して…
悲しかっただろうな。
部屋も綺麗になってたし、夢だったんだと完全に思ってた私と違って20年も我愛羅君はずっと私を殺そうとした事悔やんでたなんて。


「…なんか、ほんとに、よく考えればさ、私は元々我愛羅君の過去を知ってて裏切られるのとかそういうのにすごく敏感って分かってた事なのに、居なくなるとか言ってごめん、ごめんね。あの日会社の人にプロポーズみたいな事されてさ、違う地域に行くから付いてきてほしいって、いい人だし嫌いじゃ無かったから…ちょっと悩んじゃったんだよね。」

「そうか。すまない、俺が居た為に…だが俺も戻って来たんだ。その男とは…上手くいっているのか」


「え、いや、断ったよ!最初はまだ若いし当たって砕けろ精神でオッケーしてみよっかななんて一瞬思ったけど、やっぱり結婚はちゃんと好きな人とするべきだな〜なんて。女ってのは複雑なんだよ。自分で言うのもアレだけど。我愛羅君が居たからとかそういうのは関係ないからね」

「…」


だからもうほんと、私も悪かったと思ってるからおあいこって事で!
いつまでも私の事気にしてちゃダメだよ大人になったんだから!と、お茶をグラスに注ぎ我愛羅君の前に置いた。

私も我愛羅君がこっちに戻ってきた時の事聞けてなんだかスッキリしたし、そろそろお風呂でも入ろうかな〜なんて呟いてると、一緒に入るかって言ってくるもんだから驚いた。


「…我愛羅君、君はいつからそんなトンチを言うようになったんだい」

「お前は一緒に入りたがると思っていただけだ。この部屋にも露天風呂が備え付けられているしな。それと、俺はもう酒も付き合える。昔約束しただろう」


く…!なんだそれは是非付き合ってもらいたい!お酒は付き合って貰うとして…、
お風呂だって一緒に入りたいに決まっている!昔少年我愛羅君と一緒に入ったお風呂なんて砂の壁に隔たれていてこれっぽっちも我愛羅君が見えなかったしね!

いやでも流石にもうどちらも成人して…
そんな男女が同じ風呂に入っていいものなのか?!恋人同士でもないのに!
てかついさっき俺も成人したって事分かって貰えたらとか言ってなかった?!
え、なに俺も大人になってたくましくなったから見てくれって言いたいの?!
それは大歓迎だけど!
いやでも、一緒に、お風呂は…

……無理だあああああ
恋人同士云々の前に私の裸を大人我愛羅君に晒すなんて羞恥プレイにも程がある!


「おおおおおおお風呂は1人で入りましゅ」

「…そうか」

「お、お酒は付き合ってね!後でね!約束したし!じゃあ私お風呂行ってくるから!」


いつまでも子供みたいで可愛いなあなんて思っていたが、こんなところで大人我愛羅君を意識してしまって思わず逃げるように貸し切りの露天風呂へと向かった。