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綺麗なキッチンだな、殆ど使ってないんだろう。
冷蔵庫にはミネラルウォーターしか入ってなくて、横にある戸棚を開けるとそこにはお茶っ葉が入っていて。
見つけたヤカンでお湯を沸かして、これまた見つけた急須でお茶を作って二つの湯呑みをテーブルに置いた。
「はい。あったかいのだけど」
「…お前は別の世界から来たと言ったな」
「え?あ…うん、そうだね」
シンキ君と向かい合うように座ってお茶を啜っているといつもの無表情で聞いてくる。
何か聞きたい事があるのか、疑問の目を向けるとフイ、と目を逸らされた。
「何か聞きたい事でもある?」
「……いつか帰るのか」
「…あー、そう、だろうね。きっと」
何を言うのかと思えば。逸らした目をまた合わせ真剣な表情で聞いてくる。
我愛羅君は一週間くらいだったな。
私はこっちへ来てまだ二日くらいで、帰るのはいつになるんだろう。
突然来たんだから、突然帰る事になるんだろう。
ちゃんと、お別れも言えずに急に居なくなるんだろうか。
というか、本当に帰れるんだろうか。
「…いつ帰るかなんて分からないけど、でもここは私の世界じゃないから、いつかは…帰らないとね。」
「帰らないと……、帰りたいとは思わないのか」
「…それは、うん、分かんないや。なんか」
いつかは帰ると思ってる、ここに来てからもいつかは帰らないとって思ってた。
私の住む世界じゃないからって理由で、帰らないといけないんだって。
ただの使命感みたいな、だって私の居場所はここじゃないんだし。
でも元の世界では結婚もしてないし、毎日仕事ばかりで、充実してる人生かって言われたらそうでは無い気がするし、純粋に帰りたいかって言われたら、そうじゃないかもしれない。
「あ〜、分かんないけど、でも帰りたくない訳じゃないよ、ほんと。いつかは帰らないといけないというか、帰るんだろうなって思ってるし。…だからずっとここには居ないから、安心してよ。はは、」
「……何故そんなヘラヘラと、笑っていられるんだ」
シンキ君は我愛羅君の言うことを聞いて、一応信用してくれたというか、一緒に住むことを承知してくれているけど、でも帰りたくないからずっと住まわせてくれなんて、我儘が過ぎると思うし、このシリアスっぽい空気もなんとなく嫌だったから冗談ぽく、ずっとは居ないよって言ったのに。
何故か怒られている気がする。
ヘラヘラ笑ってるって、そんな事言われても。
「い、いや、笑ってないと、さ。違う世界に来たからって、グズグズ泣いてたりなんかできないからね。それにまだこっちに来て二日だし、私にとって全く知らない世界って訳でもない。我愛羅君だっているし。意外に楽しんでる自分がいて。この先どうなるか分からないけど、」
「…」
「まあ、あんまり難しく考えてないだけなんだけどね、楽観的っていうか」
難しく考えても始まらない。というか、難しく考えていたら私はここには居なかったかもしれない。
今が良ければそれで良いって、全てがそうではないけど私のこの体験は神様の悪戯に身体を預けるしかない。
正直この先どうこうとか、帰る方法云々とかよりも私は
「今はシンキ君と、我愛羅君と、みんなと、仲良くしたいな。」
そう思う。