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「…義父上、入ります」
コンコンと執務室の扉を叩いて、入室の許可を扉の向こうにいるであろう人物に求めるシンキ君。
すぐに中から短い返事が返ってきて、扉を開けると、コソコソとシンキ君の後ろに隠れていた私の腕を引き、私だけを執務室に引き入れた。
「ちょ、わ、…!」
突然腕を引っ張られ、大袈裟に言えば投げられたみたいにされたのでバランスを崩し転びそうになったけどなんとか耐えた。
「では、俺は任務へ行きます」
「ああ、すまないなシンキ」
…敵を捕獲して連行しました、みたいな事しといて普通に会話するのやめてくれるかな我愛羅君、シンキ君。
シンキ君はそのまま出て行って、執務室に残ったのは私と、我愛羅君だけで。
机に肘を付き、顔の前で手を組んで黙ったままこちらを見ている我愛羅君になんて声をかければいいのか分からなくて、咄嗟に口から出たのは、おはようございますの一言。
うわあああ、なんだよおはようございますって、なんで敬語なんだよ。意識してるの丸わかりじゃんか。
いや今となっては結構な年上だけどさあああ。
「名前、」
「…は、な、なんでしょうか」
「昨日の事なんだが、すまなかった」
「…は?」
え、まさかの謝罪?
昨日の夜返事くれとか言われたらどうしようとかめちゃめちゃ悩んで寝不足なのに。
あ、でもはっきり言われた訳じゃないんだっけ、ていうか私の勘違いだったりして。
「危機感が無いと、少し手荒な真似をしてしまった。申し訳ない」
「え、?あ、そんな事?」
「…それ以外に何かあるか、?」
いや、私は昨日あんな事言って動揺させてしまってごめんとか言われると思ってたから、思わず拍子抜けしてしまった。
それ以外に何かあるか、という我愛羅君は本当にそれ以外何も無かったと思ってるんだろうか、それとも本当に私の勘違い…?
我愛羅君を見れば未だに顔の前で手を組んでいて、その態度本当に謝る気あるの?なんて思った事は内緒だが、表情は至って真剣だったので、なんでもない、気にしてないよ。と返した。
まあこれで、昨日の謎の悩みも多分私の勘違いって事で終わりそうだし、追い出されるなんて事もなさそうだし安心安心。
晴れてまた、私が元の世界に帰るまで我愛羅君とシンキ君と仲良くしたいな〜。
そう、なんとも能天気な事を考えながら我愛羅君の方に近づいて行こうとした。
「それと、」
「え、?」
「これからは俺に用がある時はカンクロウに言ってくれ。後、お前には邸内に一部屋用意した。これからはそこで生活してくれ。荷物もそちらへ移動済みだ」
「あ、うん、分かった…、?」
「…では外にいるカンクロウに部屋まで案内してもらってくれ。……カンクロウ」
せっかく我愛羅君の方まで行って頭でもなでなでしようと思ったのに、それを拒否するみたいに言葉で遮って来たので若干の違和感を覚えたが、我愛羅君がカンクロウ君を呼んだ事でその違和感を確かめる事ができなかった。
「話は済んだかよ、」
「ああ」
「んじゃ、行くぜ名前」
「え?あ、うん」
じゃあな、と行って部屋を出るカンクロウ君を目だけで一瞬追った後、すぐに手元にある書類に目を通し始めた我愛羅君になぜか声をかける事ができずに、すでに部屋から出て行ったカンクロウ君を追いかけた。