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そうだ、あの子はなんであんなに怒ってんだ。
言わなきゃ、って思うことはいいことだと思う。その言動がどんなに相手を困らせても、心に留めて置くのはしんどいだろうから。
私も我愛羅君が随分前から本気で私の事想ってくれてるんだって事は重々承知した。…つもり。
でも今朝のあの態度はなんなんだ。
折角愛の告白をしようとしたのに遮られて、それで怒ってるって事なの?
いやでも、あんなあからさまに避けるみたいな事する?小学生じゃん三十路超えてるくせして!
そりゃあ私だって、昨日の夜は悩んだけど?気まずいとか思ったけど?
それでも呼ばれたらちゃんと行ったのにあんな避けるみたいな事して!バカヤロー狸が!
「…おい、心の声が丸聞こえじゃん。落ち着けって」
「だってさ!見た?!あの態度!小学生だよ女子高生だよ!なーにが、話がある時はカンクロウを通せだよ、芸能人かよ」
「ショウガク…なんだそりゃ。でもまあ、あからさま過ぎた所はあっただろうが、アレには理由があんだよ」
どうやら私の心の声は漏れていたらしいが、今朝の我愛羅君のあの態度を思い出すと段々と腹立たしくなってきたので、またコーヒーを飲み自分を落ち着かせた。
「っ、それで、理由?理由って何よ」
「あいつはな、お前が動揺しきってるのを見て、完全に自分が言った事を後悔してたみてえじゃん。我愛羅はまだお前の事諦めきれねえみたいだったが、このまま同じ屋根の下で、仲良しこよしで生活していくと、またお前を動揺させるような事をしでかすかもしれねえし、それでお前を困らせたくねえ。だからなるべく離れていた方がいいんじゃねえかって、それで部屋をわざと遠くしたんだ。」
「…」
「だがお前は多分、正直に言うと反論してくるだろう。それなら有無を言わせねえように、…突き放す様な態度を取るのもやむを得ないって言ってたぜ。ちょっとは我愛羅のエゴみたいなもんも入ってるだろうけどな」
だがあいつなりに、お前の事考えてるんだよ。と、カンクロウ君は言ってくるが、私はそこまでする必要あんの?と考えていた。
我愛羅君の言いたい事は分かる。いつか離れるかもしれないのにこのまま好きな人と一緒に居るなんて辛いって事だろう。うん、そういう事あるよね。
でもそれなら我愛羅君とだけ、離れてればいい。
我愛羅君の個人的な感情なんだから。
私はいつ帰る事になるのか分からないこの状況なら、今、この世界を楽しみたいという考えが一番強い。
我愛羅君が私の事を優先的に考えてくれるなら、我愛羅君以外の人達、カンクロウ君やシンキ君達とは仲良くしたいと思う。
部屋だって、最初こそ与えてくれれば一緒に住む事になろうが、外に与えられようがなんでも良かったけど、ここで生活を共にするって最初に言ったのは我愛羅君じゃん。
わざわざ反対してたシンキ君にも納得させてさ。
なのに今更突き放すなんて、なんなんだ。
折角みんなと、短い間かもしれないけど仲良くなれたらいいなって思ったのに、納得いかないと思うのは、私のわがままなんだろうか。
「…納得いかねえって顔してるじゃん、お前。」
「だって我愛羅君一人の感情じゃん、それなのに、…私に誰とも親しくするなって言いたいの?」
「………なるべく、だ」
「はあ?!な、どうしてそうなるの?!」
カンクロウ君のまさかの返答に、思わず大きな音を立てながら立ち上がってしまった。
そんなに広くない喫茶店中に音と声が響き渡って、沢山の視線が私たちのテーブルに集まった。
それに気づいて、一瞬冷静になり静かに席につく。
「まあ、聞いてくれ。なるべく誰とも親しくするなってのも、お前の事を考えてっからだぜ。…あんまりこっちの世界の奴らと親しくなると、お前が帰り辛くなるんじゃねえかってな。悲しいとか寂しいとか、お前にそういう思いをさせたくねえんだと」
腕を組みながら、頭に血が上っている私を諭すように言うカンクロウ君。
確かに、我愛羅君が居なくなったとき、夢だったと思ってたけど寂しかった。
また会えたら、なんて夢のつづきを求めた事もあった。
今、漫画の中に来ている私は妄想の延長線上にいる気分だけど、このままずっと帰れなくて、一か月、半年、一年、みんなと仲良く過ごしたとしたら多分、帰りたく無いって思うかもしれない。
我愛羅君の言うことも最もだ。
でも、でもさ、私だって大人なんだし、自分の状況もちゃんと理解してるつもりなんだ。
いつか帰る事が分かってるなら、それまでの間みんなと楽しい思い出作りたいって私は思う。
だから納得いかない。
…色んなキャラに会ってウハウハする時間を奪うなんて絶対許さないし!
まだヨドちゃんにもアラヤ君にも会ってないのに!
「……そんなのやっぱりヤダ」
「?…なんだよ」
下を向いて、ブツブツ言ってる私の顔をテーブルの向こう側から覗き込むみたいにして少し身を傾けるカンクロウ君の方に、ス、と顔を上げて向き直った。
「誰とも親しくするなだなんて…!絶対やだね!」
「…!お、落ちつ、…」
「我愛羅君に文句言ってやる!」
残っていたコーヒーを飲み干し、勢いよく立ち上がって、カンクロウ君にご馳走様!と言うと喫茶店を出る。
待てよ!とカンクロウ君の声が聞こえたが、そんなの関係ないと、風影邸の我愛羅君が今いるであろう執務室へと走った。